レッスン開始

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レッスン開始

いつもしっかりとしている部長が呆然とした表情するなんて、こんな顔の部長を見るのは初めてだ。 黙ったまま何も言葉を口にしない部長の様子を窺うように首を傾ける。 「あ、あの部長……、今日からでもいいでしょうか?」 「えっ? あ、いや……」 「3ヶ月っていう時間が限られてますし、少しでも多く経験を積んでおきたいんですけど……」 「少しでも多く経験を積んでおきたいって……。本当にお前はこういうときでも真面目なヤツ……、あっ、いや、悪い。つい……。ご、ごめん」 部長がしまったという表情を浮かべ、申し訳なさそうに顔を歪めて謝ってきた。 「さっき約束したばかりだというのに……。ほんとにごめん……。あ、あのな、白石、今日からっていうのはちょっと……」 何か理由があるのか、いつもの部長らしくない歯切れの悪い言い方をする。 「今日はダメってこと、ですか?」 「あ、いや、そうじゃなくて……、こういうことはな、やっぱりその、普通の習い事と同じように、“はい、これからはじめましょう” みたいな感じではできないだろ? やっぱりその場の雰囲気というか、そういうシチュエーションというか……」 ひとつひとつ言葉を選んで理由を述べてはいるけれど、やっぱり歯切れが悪いというか、何度も視線をさまよわせている。 「雰囲気、ですか? どんな風にしたら……? も、もしかして私……、服を脱がないとダメってこと……ですか?」 「そ、そうじゃない。そういうのは男に任せておいたらいいんだ。なんて言うかだな、その……、あっ、そうだ。白石はどんな風にしてほしいんだ? お前の、お前の好きなようにしてやるよ」 歯切れ悪く話していた部長の表情が急にパッと明るくなった。 「私の好きなように?」 「ああ、色々描いていた夢があるだろ。初めてのときはこんな風なシチュエーションでしたいとか……」 そんなこと考えたこともなかった。 マニュアル本の中では、付き合い始めて何度かデートをしてもすぐに身体を許してはいけない、半年くらい経って相手に誘われたタイミングがベスト、としか書いてなかった。 だからそのタイミングを計ることばかり考えて、どういうシチュエーションでとか、どういう場所でとか、そんな誘われたあとのことなんて全く考えていなかった。
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