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そもそもいったいどうしてまたこんなことになってしまったのか。
だいたい、俺はあのキスをした夜から白石と二度とあんな風にならないようにとにかく気をつけていたというのに。
福岡出張の時も、わざとレディースフロアのあるホテルを選び、白石と同じフロアにはならないように配慮していたのだ。
今日だって一緒に神田まで出かけることにはなったけれど、それはこの間の福岡出張の延長で仕事と考えていたし、やましい気持ちなんて全くなかった。
ただひとつ原因をあげるとすれば、出張が無事に終わって気を抜いていた俺は、話の流れから白石をこの部屋に連れて来てしまったことだ。
でもあの時はきちんと理性も働いていたし、容器からプリンを綺麗に出す方法を教えることができたらそれで終わりだとそう思っていた。
なのにあいつは──。
楽しかった会話が急に翳り始めたのは、2回目の挑戦でプリンを容器から綺麗に出せた白石が、俺の教え方が上手だと褒めたことがきっかけだった。
「仕事でもそうですけど教えてくれるのが上手だなって思うんです。部長みたいな人が教師だったら勉強がすごくわかりやすいだろうな」
そう笑顔を向ける白石に、俺はいつものように白石を褒めるある言葉を口にした。
『白石みたいな真面目な生徒ばかりじゃないからな』
真面目──。
この言葉が突然白石の顔から笑顔を消えさせたのだ。
仕事に対しても他人に対してもいつも真面目で、教えたことは素直に受け入れる。
それに今回の新店舗の案件だって何かいいアイデアはないかと一生懸命考えている。
俺としてはそんな白石のことを褒めたつもりだった。
だから、「部長、その真面目って言うの、もうやめてもらってもいいですか?」 と笑顔が消えて視線を逸らした白石に、俺は焦って尋ねた。
「急にどうしたんだ? な、なんで?」
「その真面目って言われると、すごく自分に自信がなくなるんです」
自信がなくなる?
どういうことなんだ?
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