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「お前の気持ちはよくわかった。真面目と言われて傷ついていたなんて知らなくて、俺はかなり白石に対して “真面目だ” と言っていたと思う。悪かった。許してほしい」
俺は素直に謝った。
いつも褒めていたつもりだったから、こんなに傷ついていたなんて知らなかった。
「そんな謝らないでください。部長が悪いわけではありません。自信のない私が悪いんです。だからもう言わないでもらえればそれでいいです。すみません」
「わかった。もう言わないようにするよ。ほんとに嫌な思いをさせて悪かったな。それとさっきの話だが……、あれはやっぱり好きな男とした方がいいと思う。あんなキスをした俺が言うのもなんだが、そういうことは好きな男とするもんだ、と俺は思う」
そうだ。やっぱりセックスは好きな男とするもんだ。
世の中には愛情がなくても性欲だけで成立する関係もあるが、白石にはセフレみたいなようなことはさせたくない。
「それはやっぱり私には魅力がないからできないっていうか、抱けないってことですよね? だから教えられないってことなんですよね?」
白石は悲しそうな顔をして、自分に魅力がないからなのかと俺に尋ねてきた。
こいつのどこに魅力がないっていうんだ。
魅力があるから変な雰囲気にならないようにと、俺がこんなにも気をつけたり、困っているというのに。
俺はそのときはっきりと自分の気持ちに気づいた。
俺は白石に、こいつに惹かれている──。
あの日、あのカフェで情けない振られ方を偶然見られてしまって、その流れから一緒に食事をしたのが最初だったけれど、そこから何度か偶然が重なって、俺はこいつと一緒に過ごす時間が素直に楽しかった。
最初から情けない姿を見られていたこともあり、変にカッコつけることもしなくていいし、なにしろ俺と食の好みが似ているのだ。
蕎麦屋に行っても、屋台に行っても、ラーメン屋に行っても、いつも美味しそうに食べて、笑顔を向ける。
麗香のようにダイエット中だからラーメンは嫌だとか、蕎麦屋よりもっとお洒落なイタリアンがいいとか、今日はサラダだけにするというようなわがままは全く言わない。
ダイエットは明日から──と、ラーメン屋で俺と同じようにラーメンと餃子を食べ、お腹いっぱい……と言いながらホテルに帰っていく姿を見ていると、可愛くて仕方がなかった。
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