偶然の共通点

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偶然の共通点

私のとんでもない発言のせいで、この数時間で随分と部長の私に対する印象が変化したようだった。締めのお蕎麦を食べている間、「女というものは本当によくわからないな」と何度松永部長に言われたことか。 半分は振られた彼女に対しての言葉だと思うけれど、私の顔をまじまじと見ながら何度も呟かれると、自分がとんでもない女性に思えてきた。それに私の食べている締めの梅とじ蕎麦まで異論を唱えるように「そんなのは邪道だ。蕎麦といえばやっぱり鴨せいろだろ」と言われる始末だった。 * 「すみません。ごちそうさまでした。私がお誘いしたのに」 お店を出たドアの前で私は松永部長にお礼を言いながらお金を渡そうとした──のだけれど、結局部長が全て支払いをしてくれて「私も払います」と何度も言ったのに、全くお金を受け取ってくれなかった。 「今日は俺が白石を巻き込んだんだ。こっちこそ悪かったな。まあお前のおかげで楽しい夜だったよ」 「それなら良かったです……っていうか、私も楽しかったです」 カフェでのあの出来事が思い出されるけれど、なんだかもう遠い昔の出来事のようだ。 「じゃあ帰るか。白石はどこから帰るんだ?」 部長が腕時計を見ながら時間を確認している。 私も鞄からスマホを取り出して時計を見ると時刻は20時を過ぎていた。 確かお蕎麦屋さんに入ったのが16時半を過ぎたくらいだったから3時間半も部長と一緒にごはんを食べていたことになる。 「うわぁ、もうこんな時間だったんですね。すみません。私たち結構長い間、お蕎麦屋さんにいたんですね」 「ほんとだな。俺も全く気づかなかった。まだ7時前くらいだと思ってたよ」 「私もです。こんなに時間が経ってるなんて思わなかったです。私は日本橋駅から帰りますけど、部長はどこからですか?」 「俺も日本橋駅だ。じゃあ、駅まで一緒に行くか」 そうですね、と返事をしながら2人で地下鉄の入り口まで歩いて行く。ビジネス街なので平日よりは人が少ないけれど、それでも東京は眠らない街というだけあって高層ビルの灯りが眩しい。 部長は歩きながら「白石はこっち側を歩け」と私を歩道側に誘導して、自分が車道側に来るように移動した。
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