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「俺は自分の中で家庭を持っても大丈夫だと納得できるまでは結婚はしたくないんだ。それに4月にこっちに来ただろ。新しい部署でまだ慣れてないし、今はまだ仕事に集中したいってとこかな。古い考えかもしれないが、結婚したら嫁さんには家庭に入ってほしいんだ。そうするにはもう少し俺が一人前になってからじゃないと家庭は作れないだろ」
こんな自分の本当の気持ちを女性に話したのは初めてだった。今まで誰に聞かれても理由は言わず「まだ結婚はするつもりがない」という言葉で通していたし、麗香にだってこんなこと一度も言ったことはない。
今時古臭い考えだと笑われるかと思っていたら、「古い考えだとは全然思わないです。そんな風に責任持って家族を養うなんてかっこいいと思います。でも部長くらいイケメンなら女性を取っ替え引っ替えしてそうなのに、人は見かけによらないんですね。意外でした」という言葉が返ってきた。
俺の思いを笑い飛ばすことなく、しかもかっこいいと認めてくれたことに少し嬉しさが込み上げる。
それにしても白石も俺のことを一応イケメンだと思ってくれているのか。確かに小さいときからモテたし、一般的に比べたら整った顔の部類に入っているのかもしれないけれど、自分のことをイケメンだと思ったことは一度もないんだがな。
「イメージなんて人が作り上げるものだろ。問題は中身だ。まあ俺は今時古臭い考えだし、セックスが下手みたいだから中身もダメみたいだけどな」
──顔がイケメンだけで自己中で下手なセックスしかしないなんて、これから付き合う女も可哀想ね。
──少しはセックスの技術でも磨いたら。
カフェで麗香に言われた言葉が蘇る。
あの言われようはさすがにちょっと堪えるよな……。
すると、白石がジョッキに残っていたビールをグイっと全て飲み干したあと、真剣な顔をして「部長、ひとつ提案があるのですけど」 と口を開いた。
そして──。
「あの……、私でセックスの練習をしませんか──?」
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