悠樹side #1

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「それにしても私たち、こんな近くに住んでたんですね。今まで一度も会ったことないですよね」 「そうだな。土日はこの辺のスーパーに酒買いに行ったりしてるし、通勤もここからしてるんだけどな」 「私もです。スーパーで買い物したり、そこのコンビニにもよく行くし」 「俺もそこのコンビニにはよく行く。平日はほぼ毎日行ってるんじゃないか」 同じ生活圏内だというのに、この半年間会社で会う以外一度も会ったことがない。 今日、こうして白石と食事でもしなかったら、俺たちはこれからも近くに住んでいることすら知らなかっただろう。 「今日は不思議な一日でした。いろいろありましたけど、部長と話せて楽しかったです」 「俺もあんなところを見られてしまったが、まあ見られたのが白石でよかったよ。出汁巻き玉子も蕎麦も美味しかったしな」 これは俺の本音だ。 あんなことを言われている場面に遭遇したのは恥ずかしいが、それが白石でよかった。 こんな風に知らない一面を見ることもできたし。 この数時間で知った白石の新たな一面に親近感を感じながら微笑んでみる。 「あっ、部長、私ここのマンションなんです。送ってくださってありがとうございました。部長も気をつけて帰ってくださいね」 えっ? ここがマンション? う、うそだろ──。 笑顔で白石が立ち止まったマンションは、なんと俺が住んでいるマンションだった。 「俺も実はここのマンションなんだ」と呟くと、両手で口元を押さえて「うそっ」と俺を見つめる白石の顔が返ってきた。
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