一晩明けて

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昨日、あれだけ自分に普通に振舞うよう何度も言い聞かせて、部長と朝会った時の会話を頭の中で色々とシミュレーションしながら出社してきたのに、緊張でドキドキしながらフロアに入るといつも定位置に座って仕事をしている部長の姿は見えなかった。 自分の机の上に鞄をおろしながら目の前に座っている同期の吉村くんに「今日は部長まだ来てないんだ?」と尋ねると、「今日は部長たち会議だからもう大会議室に行ってるよ」と教えてもらい、安堵すると同時に少し気が抜けたように椅子に座った。 どうした、部長に何か用事でもあったのか?──と窺うように顔を向けてきた吉村くんに、ううん、何もないよと微笑み返し、私は仕事を始めたのだった。 「茉里、若菜ちゃん、そろそろ社食混んじゃうし早くランチ行こう」 葉子の言葉に私と若菜ちゃんは椅子から立ち上がり、3人で社員食堂へ向かった。 社員食堂は本社の最上階、10階にある。 エムズコーポレーションの本社は10階建ての自社ビルで、1階にはカフェ ラルジュの1号店でもある神田本店があり、2階から上が業務フロアになっている。エレベーターで10階に上がると、既に3分の1くらいの席が埋まり始めていた。 「あー、お腹すいたー。今日はガッツリいきたいな……。あっ、カツ丼がある。私はカツ丼にしよっと」 葉子が社食のメニューを見て人気のカツ丼にさっさと決めたところで、若菜ちゃんも「じゃあ私も葉子さんと一緒でカツ丼にしちゃお」とトレイを持ってカツ丼の列に並び始めた。 私は本日のおすすめと書かれた五目あんかけ焼きそばと迷いつつ、アジフライ定食にすることにした。 家では自炊をしている私だけれど、やっぱりどうしても好きなものばかり作ってしまうし、一人暮らしのキッチンでは揚げ物は敬遠してしまう。なのでこういった家で作らないような定食メニューはとてもありがたい。 窓側の空いている席に3人で座り、「いただきます」と言ってお味噌汁に口をつけたところで、葉子がまた松永部長の話をし始めた。
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