一晩明けて

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「ねぇねぇ、松永部長ってさ、彼女いるのかな? 水島部長みたいに突然結婚したりしないよね。この会社でイケメンで独身って言ったら松永部長だけじゃん。まだしばらくは他人のものじゃなく、みんなのものでいてほしいよね」 ねぇ、そう思わない? と同意を得るように私たちを見つめる葉子に、私は土曜日の出来事を思い出し、むせ込みそうになったお味噌汁をなんとかゴクッと飲み込んだ。 そんな私とは対照的に若菜ちゃんが、それ、わかります!と大きく頷いている。 葉子は入社したときから営業部の水島部長のファンだった。 私たちが入社した当時はまだ課長で、イケメンなのに結婚する気配すらなく独身を貫いていることから、実は女性嫌いなのではないかと噂になっていたほどだ。そんな長年独身だった水島部長が、昨年、ジムで知り合ったという女性と電撃的に結婚したと知った時には葉子の落ち込みようは相当なものだった。 「水島部長の奥さんもだけど、松永部長の彼女も羨ましいよね。あのイケメンな顔が毎日拝めるんだもん」 「ですよねー。でもイケメン具合で言ったらうちの部の吉村さんもイケメンですよ。確か同期でしたよね?」 卵でとじられたカツをパクッと口に入れた若菜ちゃんが、美味しそうに口を動かしながら私たちの同期の吉村くんの名前を出す。 「吉村? まあイケメンっちゃイケメンだけど、あいつはさ、昔から特定の彼女しか目に入ってないからね。彼女には全然態度が違うんだよね。特別優しいというか、気持ちがダダ漏れなんだよね。若菜ちゃん気づいてる?」 「そうなんです、私もそう思います。でも彼女はそういうことには全く気づいてないんですよ」 「やっぱり若菜ちゃんも気づいてたんだ。そう思うよね」 葉子と若菜ちゃんが盛り上がる中、「吉村くんって彼女いたんだ?」と質問すると、「茉里は気づいてなかったんだ」とニヤニヤした顔が返ってきた。
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