一晩明けて

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「えっ、うそっ。吉村くんの彼女って社内の人なの?」 「そっかぁ、茉里は目の前に座ってるのに気づいてなかったんだ」 葉子は私の質問には答えず、若菜ちゃんと楽しそうに笑いながらカツ丼を口に運ぶ。 吉村くんの彼女って誰なんだろう。 今の話の感じだと100パーセント社内の人っぽいよね? 社内の女性の顔をあれこれと思い浮かべながら誰なんだろうと考えていると、でもさ、さっきの話に戻るけどここだけの話──、と葉子がひそひそと話をするように顔を寄せてきた。 「水島部長はもう人のものになっちゃったけど、松永部長は独身でしょ。結婚する前に遊びでいいからあんなイケメンに一度くらい抱かれてみたくない?」 小悪魔っぽい顔をした葉子の言葉に、「もう、葉子さんったら。……でもそれアリかも」と若菜ちゃんが顔を赤らめる。 「よっ、葉子、ここ社食! そんなこと言ったら周りに聞こえちゃうよ」 口元で小さくしぃっーと人差し指を立てる私のことなんてお構いなしに、葉子は「大丈夫、聞こえないって。声ちっちゃいもん」と周りを見渡しながら笑っている。 「でもこんな話聞こえちゃまずいじゃん。それに葉子はれっきとした優しい彼氏がいるでしょ」 小さく横に首を振りながら、ダメと葉子に合図を送っていると、全く茉里は真面目なんだから。茉里も少しはそう思うでしょ──という声が返ってきた。
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