一晩明けて

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葉子と別れ、変に勘繰られなかったことに安堵しながら若菜ちゃんと一緒にフロアに戻り、私は自分の席に座ってパソコンに向かった──のだけれど。 どういうわけかさっき社食で会った松永部長の顔がちらつき、頭の中から離れない。 気持ちを切り替えようと社食で入れてきたコーヒーを口にして首をぐるぐるっと回したあと、再びエクセルの数値と資料のここ半年の売り上げの分析結果を照らし合わせ始めたのに、しばらくするとまた松永部長の顔がちらつき始める。 幸いにも部長は午後からも会議なのでフロアには不在だというのに、どうしてこんなに集中できないんだろう。 どうしてかってそんなの決まってるじゃん。 自分があんな発言したからでしょ。 そんなに気になるならきちんと謝って、この間の発言のことは忘れてくださいってお願いしたら? 謝るとしてもどこで謝るの? 会社でこんなこと言えないじゃん。 ひとりで自問自答しながら考えこんでいると、「何かわからないことでもあるのか?」と目の前の吉村くんが声をかけてきた。 えっ? と視線を前に向けると、様子を窺うように私を見ている吉村くんの顔があった。 「席に戻ってきてからずっと難しい顔して考えこんでただろ?」 「あっ、ううん。えっと、早く福岡の3店舗目の詳しい資料がもらえないかなと思ってただけ」 とっさに出たもっともらしい言い訳にほっとしながら吉村くんに笑顔を向けた。 吉村くんは目の前に座っているせいか、いつも私が何か考えこんでいるとこんな風に気にかけてくれる。 院卒なので私より2歳年上だけど、昔から優しくて有難い同期だ。 「そういえば福岡の3店舗目は白石が担当するんだったよな」 「うん。ちょっとカフェのイメージが纏まらなくて。3店舗目は駅前や空港じゃなくて通り沿いにできるって聞いてるから、こんな感じにしたいっていうのはあるんだけどね。やっぱりちゃんと資料もらってから考えた方がいいよね」 「まあ、そうだな。前もってイメージを纏めて準備しておきたい気持ちもわかるけど、ターゲット層も売れ筋もコンセプトも場所によって全く違うからな。都内なら土地勘がある分、ある程度予想つきやすいしイメージもしやすいけど、地方だと土地勘もないし現地に行くこともないから、なかなか難しいよな」 キーボードから完全に手を離した吉村くんは両腕を組み、私の話に頷きながら真剣に考え始めた。
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