一晩明けて

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「そうなの。都内なら休みの日にカフェをオープンさせる場所に出かけて実際に見ることはできるじゃん。近くのカフェに入って、どんな人が利用してるとか数時間観察するだけでも違うもんね。だけど地方だと遠いから行けないし無理だもんね」 「えっ? 白石って休みの日に都内のカフェができる予定地を実際に見に行ったりしてるのか? ひとりで?」 そんな驚くようなことじゃないのに、吉村くんは知らなかったと言わんばかりに大きく目を見開いている。 「うん、自分が都内のカフェの担当になったときはね。だってその方がイメージ湧きやすいし、他店のカフェに入って観察するのも勉強になるじゃん」 「マジで? 知らなかった。じゃあ今度さ、勉強がてら一緒に行ってみないか? 実は目黒に新しくできたカフェがかなり人気らしくて、どんなカフェなのか気になってたんだ。2人だとさ、いろんな意見が交わせるし、福岡の3店舗目の参考にならないかな?」 そうだねと返事をしながら、そういえば……と社食での話を思い出す。 さっきの葉子と若菜ちゃんの話だと、吉村くんには社内に彼女がいるらしいってことだったよね。 彼女がいる人と2人で出かけるのはいくら勉強のためだとしてもダメでしょ。 彼女は絶対に嫌だと思うもん。 「どうした? 急に黙り込んで」 急に静かになった私に吉村くんが心配そうな視線を向ける。 「あっ、そうだ! 人気のカフェならさ、若菜ちゃんも誘って3人で行こうよ。若菜ちゃんもいろんなカフェ見て勉強してるって言ってたし。ねぇ、若菜ちゃん」 我ながらいいアイデアだと思いながら若菜ちゃんに視線を向けると、「えっ? わっ、私もですか?」と、なぜか必死で笑いを堪えるように片手でぎゅっと口元を押さえた。
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