一晩明けて

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「なんかね、目黒にできた新しいカフェがすごく人気なんだって。若菜ちゃんもカフェ好きだし、いろんなカフェに入って勉強してるって言ってたじゃん。予定が合えば3人で行ってみない?」 いいですよ、私も行きたいです──というノリノリの答えが返ってくると思っていたのに、若菜ちゃんからは全く違う答えが返ってきた。 「すみません。カフェに行くならひとりで行くか、好きな人と一緒に行きますので私は遠慮しておきます」 んっ? 遠慮する? 好きな人と一緒に行くから? それが断られていることだと瞬時に理解できなかった私は、数秒間若菜ちゃんを見つめたあと、慌てて口を開いた。 「もしかして若菜ちゃん彼氏がいたの? ごっ、ごめん。知らなかった」 葉子に彼氏がいるのは知ってたけれど、若菜ちゃんにも彼氏がいたとは聞いていなかった。すると、「茉里さん違いますよ」と若菜ちゃんが手を横に振った。 「だってこういうのって、仕事に託けて好きな人をデートに誘うにはうってつけの口実になるじゃないですか。私はそういう人気のカフェには好きな人を誘ってデートで行きたいです。吉村さんもそう思いませんか?」 笑顔で尋ねる若菜ちゃんに「よ、よくわからないけど……、そういうこともあるのかもな」と吉村くんが私たちに視線をさまよわせながら答えている。 「そうなんだ。私はそんなこと考えたこともなかった」 この間の土曜日に入った日本橋のカフェを思い出す。 私はお洒落なカフェができたと聞いて行ってみたけれど、松永部長は彼女をデートに誘う意味もあってあのお洒落なカフェに行ったのだろうか。 「若菜ちゃんってすごいよね。こういうのって策士って言うのかな。勉強になるな」 今まで読んできた恋愛マニュアル本には、デートするなら遊園地や水族館、映画館に公園といったところばかりが紹介されていた。 普通のデートさえできないっていうのに、仕事しながらデートをするなんて、こんな高度テクニック、私には絶対に使えそうもない。 「吉村さん、茉里さんが私のことを(・・・・・)策士って言ってますよ。ククッ、前途多難ですね。だめだ、もう我慢できない、笑っちゃう……。すみません……」 なぜか若菜ちゃんは「策士」という言葉がツボに入ったのかケタケタと笑い始め、吉村くんは咳払いしながら何も言わずまたパソコンの画面に向かい始めた。 私はというと日本橋のカフェを思い出したことで、また自分が言ったあの発言が頭の中で繰り返され、この日は全く仕事に集中できないまま定時まで過ごすことになった。
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