上司が振られていました

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私の呼びかけに松永部長が後ろへ振り返る。 私は部長のそばまで駆け寄ると、緊張を隠すように手に持っていた鞄の持ち手をギュッと握った。 「あ、あの部長、これから用事がないようでしたら夜ごはん食べて帰りませんか?」 「はっ? 夜ごはん? 飯か?」 「そ、そうです。私、さっきのお店で夜ごはん食べて帰るつもりだったんです。部長に連れ出されてしまったので、食べ損ねてしまいました。こ、この近くに行ってみたいお店があるんです」 「この近く?」 「はい。お蕎麦屋さんなんですけど。少し夜ごはん付き合ってもらえませんか?」 部長は少し難しい顔をしながら何か考えている。 用事があるのだろうか。それとも恋愛感情なんて全く無いにしても、やっぱり部下の女性と2人で休日にごはんに行くというのがダメなのだろうか。 何も言わずにじっと考えている姿を目にしていると、言うんじゃなかったと後悔の気持ちが現れ始める。 「あ、あの、嫌でしたらすみません。ひ、ひとりで食べて帰りますので大丈夫です」 悲しそうに見えた部長の背中だったけれど、どうやら私の勘違いだったようだ。部長の困ったような表情に、すみませんと頭を下げる。 「ああ、いや、その嫌じゃなくて、もしそのさっきのことで俺に気を遣ってくれてるのなら……と思っただけだ。まあ蕎麦屋ならそんなこともなさそうだな」 わざと自嘲気味に笑った部長は、逆に私に気を遣うように「それでその蕎麦屋はどこにあるんだ?」と周りをきょろきょろと探し始めた。 私は「こ、こっちです」と案内しながら松永部長が赴任してきた頃のことを思い返していた。
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