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優しさを履き違えている男達
思いの丈を皮肉たっぷりに告げた日から、彼氏の態度がものの見事に様変わりした。
頻繁なメール。
あまり言葉にしなかった愛を口にする。
空いた時間は常に私の傍におり、あれだけ優先していた幼馴染の相談も受けてないようだ。
友人も友人の幼馴染も、そんな彼氏と私を生温かい目で見ている。若干一名だけが、通用しなくなった弱い弱い詐欺に固執しているようだけど。
同時に、友人の幼馴染である彼は、彼氏がいればソッと離れていく。休日前は必ず遊びに誘ってくれていたのに、それもなくなった。
私と友人の幼馴染は友人である。
彼氏が変わろうとも、それによって関係を変える必要はないはずなのだ。
でも、「男の僕が君と仲良くしてたら改善するものもしなくなるでしょ」と、妙な気を遣っている。
その気遣いは無用だと何度説明しても取り合ってくれず、「今は複雑だろうけど大丈夫」だとか、「彼氏と一緒にいれば愛を思い出すよ」などと、励ますような慰めるような事を言うのだ。
どこか遠い目をして。
眩しいものでも見るように切なげに笑って。
彼は間違えている。
また、間違えようとしている。
聞いたわけじゃないし本当の事は分からないけれど、その態度やその仕草、根暗で真面目という彼の言を信じれば、自ずと答えは見えてくる。
そして、私の彼氏も間違えていた。
指摘された優先順位、突き放した私と別れもせず必死に取り繕っているけれど、一緒にいるから分かってしまう。
愛に嘘はない。
反省もしているし改心もしている。
私を一番優先しているし大事にもしていた。
でも、ふと瞬間、彼氏も遠い目をするのだ。
何かを探すように、考えるように、心ここにあらず状態だと丸わかりな表情で。
「ねぇ、たまには幼馴染と会いなよ」
「っ、会わないよ。なんでそんな事言うんだよ。俺はお前が一番で、」
「うん。分かってる。でも、幼馴染は妹みたいに思っているんでしょ? 家族なんでしょ? 断り続けているのが苦しいんでしょう?」
押し黙るってことは肯定なんだろう。
ゆらゆら揺れる瞳が彼氏の葛藤を表していた。
「正直に言うね。貴方は私を愛しているけれど、一番には出来ない愛なんだよ。意識してないかもしれないけど、私と居ても笑ってないよ」
「……そんなこと、ない」
「あるってば。まず指摘されなきゃ気付かなかった。こうして改善した風に見せかけているけれど、心の中は幼馴染のことでいっぱいになっている。私と居るのはただの義務でしょ? 楽しい? 楽しくないよね。だって無理してるんだから」
彼女を一番にしなければ、じゃなくて、本心から思ってくれなきゃ意味がない。言われないと気付かなかった時点で、改心も改善も無駄なのだ。
無意識下で出した答えが彼氏の本音。
始めから彼氏は幼馴染が一番だった。
だから私は見限ったんだよ。
愕然とする彼氏の傍を離れる。
もう一人の履き違えた男に会う為に。
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