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いつか、なんて日はもう来ない
「ごめん。今度必ず埋め合わせするから」
神妙な顔をして私の彼氏が私に言った。
明日のデートをキャンセルしたいらしい。
ここ最近、何度も聞いた台詞である。
「どうせまた、あの子でしょ」
「またって……そんな言い方するなよ。あいつは今、深く傷付いているんだ」
彼氏の返しにカチンと来る。
じゃあ何か。
約束を破られる私は傷付かないのか。
「あいつが俺を頼り過ぎな面はあるけど、でもそれは幼馴染だからだよ。決して男女の情はないし俺は妹みたいに思っている。だから相談があるって泣いて言われると……突き放せない。ごめん」
幼馴染……ね。
私の入り込めない絆を持ち出すのはズルいと思う。
今ここで、その幼馴染やらと同じく泣き喚いて縋ったら、彼はどんな答えを出すのだろう。
友達の定義は幅広い。
親友の定義は友達よりも濃密な関係を示すものだけど、人によって解釈が異なる「幼馴染」という立場は摩訶不思議としか言いようがなかった。
誰かはそれを友と呼び、親友と呼び、昔の知り合いと呼び、悪縁と呼ぶ。
私の彼氏は「幼馴染」を妹と称し、家族のカテゴリーに位置付けた。
逆に言えば、家族だから許せ、我慢してくれ、優先してもいいだろうと、甘えという名の押し付けが隠れている。
そこに、私の気持ちは存在しない。
察することもしない。
だから、簡単に約束を破れるのだ。
「今回は譲れないよ……断って欲しい」
「……ごめんな」
表情だけは一丁前に取り繕っているけれど、ごめんと言いながら少しも悪いと思ってないだろう。
毎回破られる約束。
埋め合わせと言いながら、彼氏からその提案が実行されたことは一度もなかった。
つまり、彼の中で彼女の私はその程度。
幼馴染以下の扱いで構わない関係らしい。
ふーん、そうなんだ。
それでいいんだ。
足掻いた結果の玉砕に私の心がスッと冷めていく。
今を我慢すればいいと思っていた。
今だけ譲ればいいのだと思っていた。
悩みは誰にでもある。
相談が終われば元に戻ると、呑気に考えていた自分がバカらしくなる。
だったら私も好きにしよう。
来ない「いつか」は求めません。
今後、貴方に期待することもありません。
彼女以上の存在を作り大事にするのなら、私だって彼氏以上の存在を作るまで。
別れの言葉は言わない。
言ってあげない。
心で下した決別の意味に貴方が気付く日は来るだろうか。
一瞬浮かんだ疑問はすぐに消去した。
関係ないか。
その程度の彼女の気持ちなど。
今を知ろうとしない、汲み取ろうとしないのだから、先なんてあるわけがなかった。
「そう……じゃあ、また今度埋め合わせしてね」
にっこり笑って告げれば、安堵したように表情を緩めた彼氏。ほらね、私の表面しか見ていない。その方が都合が良いからそうしているんだろうけど、見限られたってこと……分かってる?
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