悲劇のヒーローを捕獲します

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悲劇のヒーローを捕獲します

やっぱりここだ。 中庭の木陰で寝っ転がり、ボーっと何を見るでもなく上を向く男の横っ面に、冷えた缶ジュースを思い切り押し付けた。 変な悲鳴を上げて現実に戻って来た男は、悪戯した私に気付くとサッと周囲に目を走らせる。 「彼氏はいないよ。私一人。安心した?」 「あーー、うん。でもさ、二人きりは誤解されそうだから僕はもう行くよ」 そそくさと立ち上がる男の手を掴み缶ジュースを握らせた。飲み終わる数分の時間ぐらい友人として付き合ってよ。 微妙な表情をしている。 今にも一気に飲み干しそうな気配だが、そうは問屋がおろさない。缶ジュースに気を取られている隙に、空いたもう片方の手首に素早く巻き付ける。 「え、な、なにコレっ?! 手錠じゃんっ?!」 「そうだよ。ハロウィン近いし、ふざけて買ったんだけどね。役に立って良かったよ」 しっかりと私の手首と繋がっているおもちゃの鎖。 おもちゃだけど、意外にしっかりしてるし鍵がないと取れないのだ。ちなみに鍵は友人に預けたので私は持っていない。 「えぇぇーー……、何し、てん、の」 「だってこうでもしなきゃ、意味の分かんない境遇に酔ってるヒーローを救えないんだもん」 「……僕のこと、じゃないよね」 「あんた以外に誰がいるのよ」 私ね、すっごく怒っているんだよ? こっちの気持ちも聞かず、勝手に私と彼氏の未来ストーリーを作られて、勝手に友人を辞めようとしているクソみたいに勝手な男。ぶん殴ってもいいですか? 「い、いや、待とう! ちょっと待とう!」 「私と友達になって迷惑しましたか?」 「し、してないよ?!」 「じゃあなんで避けるの。逃げるのよ」 「避けるとか逃げるとかじゃなくてっ! あー、僕の役目は終わりって言うか……その、」 「へー、友達に終わりってあるんだ。喧嘩した覚えも嫌われた覚えもないんだけど。 私、何かした? と言うか、役目って何?」 今日はとことん追い詰めるからね。 何もかも洗いざらい話すまで逃しません。 引かないのが分かったのか、観念したようにポソポソ話し出した内容は予想した通りだった。 「なるほど。私を別れた彼女に見立ててたんだ」 「ごめん……」 「そこはいいよ。友達になるきっかけだったんだから。でもね、その後が良くないよ。彼氏を自分に見立て、別れた彼女と出来なかったやり直しを私達に見出すのは分かるけど……私や彼氏はあんたの道具じゃないんだよ」 「うん……本当にごめん」 「それに、さっき別れてきたし」 「えええっ?!」 「現実なんてこんなもんなの。あんたもさ、過去ばっか見てメソメソしてありもしない妄想に溺れているヒマがあったら、もう一度元カノに当たって砕けなさいよ!」 「く、砕け……砕けろ、って」 「今思ってることを全部吐き出して砕けて来たらいい。骨は拾ってあげる。友人だもん」 及び腰の彼を引っ立てる。 調べはついているのだ。 いざ行かん、元カノのもとへ。
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