いつか、なんて日は幻想でした

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いつか、なんて日は幻想でした

「それってさ、すでに浮気って呼んでもいいんじゃない?」 大学の昼休み。 私と彼氏、共通の友人に足掻いて玉砕した結果を報告したところ、そう言われてしまった。 だよね。 客観的に見てもそう思うよね。 腑に落ちる自分は既に諦めがついている。 「あんたはもっと怒っていいと思うよ」 なんなら殴れと息巻く友人は、私からガツンと言ってやろうかと拳を振り上げた。 それを曖昧に笑って受け流す。 殴ったところで、意味はない。 起こった事実は変えようがないから。 でも私を想ってくれる気持ちは嬉しかった。 あの子への恋愛感情はないと言い切った彼氏。 だけど選ぶのは、優先するのは、いつもいつもあの子の方だった。 肉体関係も恋情もない相手に負ける彼女って、果たして彼女と言えるのかな。 「怒る必要は、もうなくなったの」 私を一番にしない彼氏。しなかった彼氏。 私は頑張ったと思う。 関係を続ける為に努力したし、待ってもみた。 だけど、伸ばし続けていた手は振り払われたのだ。 「え、別れるってこと?」 「ふふ、違うよ。彼氏から言ってくるなら受け入れるけどね」 不思議なことに、私の精一杯の足掻きが無駄になった瞬間、今まで溜に溜めていた不安や不満、選んで欲しいという欲求がなくなった。 しいて言えば無。 彼氏に対してなーんにも感情が湧いて来ない。 「そうなんだ。じゃあ、僕と楽しいことしない?」 突然の声に友人と同時に振り返る。 頭に枯葉をつけた男がニコニコしながら私達を見ていた。 誰?! 友人は見知っているのか、笑う男の頭をはたく。 「ちょっ、あんた! 盗み聞きしてたわね!」 「してないよ。寝てたら聞こえただけだし」 「起きた時点で立ち去りなさいよ!」 「あー、その手もあったけど、内容に興味が沸いちゃって。思わず声かけちゃったんだ」 悪気のない態度や軽い返事に、友人が鬼の形相で男を叩きまくるのを慌ててやめさせた。 「本当にごめんね。こいつってば昔からデリカシーがなくて。ほら、あんたも謝りなさいよ!」 「ごめんなさい。で、明日ヒマになったんなら僕と遊びませんか。この暴力女はもちろん抜きで」 むぎゅっと両手を握られる。 初対面なのにスキンシップが激しい人だ。 戸惑っていれば、友人が男を引き剥がしてくれた。 「重ね重ねごめんね。こいつ、私の幼馴染なの」 幼馴染……。 言われたワードに心臓が跳ねる。 その言葉だけはまだ慣れないようだ。 「で、どうする? 遊ぶ? 遊ぶよね」 「……そうだね。遊ぼっか」 聞きながら握る手に力を込めた彼に、私も答えながらギュッと握り返す。 ありもしない幻想を本当に捨てる第一歩になるのなら、丁度良いだろう。
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