132人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
いつか、なんて日は幻想でした
「それってさ、すでに浮気って呼んでもいいんじゃない?」
大学の昼休み。
私と彼氏、共通の友人に足掻いて玉砕した結果を報告したところ、そう言われてしまった。
だよね。
客観的に見てもそう思うよね。
腑に落ちる自分は既に諦めがついている。
「あんたはもっと怒っていいと思うよ」
なんなら殴れと息巻く友人は、私からガツンと言ってやろうかと拳を振り上げた。
それを曖昧に笑って受け流す。
殴ったところで、意味はない。
起こった事実は変えようがないから。
でも私を想ってくれる気持ちは嬉しかった。
あの子への恋愛感情はないと言い切った彼氏。
だけど選ぶのは、優先するのは、いつもいつもあの子の方だった。
肉体関係も恋情もない相手に負ける彼女って、果たして彼女と言えるのかな。
「怒る必要は、もうなくなったの」
私を一番にしない彼氏。しなかった彼氏。
私は頑張ったと思う。
関係を続ける為に努力したし、待ってもみた。
だけど、伸ばし続けていた手は振り払われたのだ。
「え、別れるってこと?」
「ふふ、違うよ。彼氏から言ってくるなら受け入れるけどね」
不思議なことに、私の精一杯の足掻きが無駄になった瞬間、今まで溜に溜めていた不安や不満、選んで欲しいという欲求がなくなった。
しいて言えば無。
彼氏に対してなーんにも感情が湧いて来ない。
「そうなんだ。じゃあ、僕と楽しいことしない?」
突然の声に友人と同時に振り返る。
頭に枯葉をつけた男がニコニコしながら私達を見ていた。
誰?!
友人は見知っているのか、笑う男の頭をはたく。
「ちょっ、あんた! 盗み聞きしてたわね!」
「してないよ。寝てたら聞こえただけだし」
「起きた時点で立ち去りなさいよ!」
「あー、その手もあったけど、内容に興味が沸いちゃって。思わず声かけちゃったんだ」
悪気のない態度や軽い返事に、友人が鬼の形相で男を叩きまくるのを慌ててやめさせた。
「本当にごめんね。こいつってば昔からデリカシーがなくて。ほら、あんたも謝りなさいよ!」
「ごめんなさい。で、明日ヒマになったんなら僕と遊びませんか。この暴力女はもちろん抜きで」
むぎゅっと両手を握られる。
初対面なのにスキンシップが激しい人だ。
戸惑っていれば、友人が男を引き剥がしてくれた。
「重ね重ねごめんね。こいつ、私の幼馴染なの」
幼馴染……。
言われたワードに心臓が跳ねる。
その言葉だけはまだ慣れないようだ。
「で、どうする? 遊ぶ? 遊ぶよね」
「……そうだね。遊ぼっか」
聞きながら握る手に力を込めた彼に、私も答えながらギュッと握り返す。
ありもしない幻想を本当に捨てる第一歩になるのなら、丁度良いだろう。
最初のコメントを投稿しよう!