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その言葉を聞いた瞬間、表情を変えなかったハイドがいきなりジキルの腕を掴み強引に引っ張り始める。
家に辿り着いたかと思えば押し込まれるように家の中に入れられ、混乱する頭が追いつく暇もなく壁の方に追いやられた。
「えっ、ちょ……」
睨むハイドの姿に怖気付き、言葉が詰まる。
こんな表情見た事が無い、師に対する初めての恐怖。
言い表わせない感覚に、滲む汗が伝い流れる様子も手にとる様に分かった。
暫く無言だった空間も、1分程経てば張り詰めた空気も元に戻る。
「すまない、痛くなかったか?」
「……大丈夫です」
「おかしいな、こんなつもりじゃなかったのだが……」
ようやく解放され、力が抜け落ち壁に寄りかかりながら尻餅をつく。
ハイドも必死に首を横に振って落ち着けようとしていたが、目はまだ少し虚ろだった。
こんな取り乱す人でない事は、共に住んでいるジキルが1番よく分かっている。
だからこそ浮かぶ疑問を、無意識に口にしていた。
「3年前から、じゃない?」
「……何が言いたい」
頭に響く叫び声は、かつての自分。
雲一つない空から溢れる雨が、目の前のそれをかき消す勢いで降り注ぐ。
その日は異常だと言われた。
雨というものが初めて観測され、事故が起きたと後に報じられた最悪な日。
両親に縋りつき、声をあげて泣いた日。
「俺の両親が死んだ日、3年前の事故で何かが変わったとしか思えないんだ」
ガタガタと窓を揺らす風が、嫌な胸騒ぎを代弁しているかの様だった。
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