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3年前、ジキルは普通で平凡な、だけど幸福に包まれた生活を送っていた。
「永久資源のキックボードが欲しい!」
「あぁいいとも、この街は何でも願えばくれるのだから好きな物を頼みなさい」
父の大きな手は、優しく背中を押してくれた。
「ほらほら、ジキルも貴方もご飯出来たから先に食べちゃいなさい」
「うわっ!俺の好きなハンバーグ!いいの!?」
「食材だって何でもいただけちゃうもの、好きな物をいくらでも作れちゃうわよ」
母の優しい手は、ぎゅっと手を握ってくれた。
幸せな日々はいつだって思い出せる、だがそれは不完全な思い出だった。
思い出を辿ると突然現れる両親の死、3年間ずっと思い出せずにいる事。
ーーーーどうして両親は死んだ?
周囲は事故だと口を揃えて言う、その肝心な事故の内容は誰も知らない。
沸々と湧き上がる疑問に、心を潰されそうになる。
冷たくなった両親に触れて死は実感していたが、事故の瞬間を覚えていない。
強く握っていた両親の手の温もりが残る程側に居たのに、初めて感じた雨の冷たさが温もりを奪い去る程長くいたのに。
「あああああぁぁぁぁぁ!!」
くしゃくしゃな顔で、掠れた声で、だけど生涯出す事ない程の大声で。
真実はもやの中で朧げに漂い、残酷な現実だけが心を突き刺す。
確かにあの日は、何かが変わった日だった。
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