表と裏

15/31
前へ
/40ページ
次へ
無理矢理引っ張られ行き先も分からないまま足を走らせ、数分走った所でようやく目的地に辿り着いたのか立ち止まる。 虚ろな目で前を向くと、長く伸びるレンガ調の建物が目に入った。 こんなレンガ調の建物は、ステラの中で1ヶ所しかない。 「時計塔……」 同時に10時を告げる鐘が、街中に報せるように鳴り響く。 街を囲む壁まで届くこの音は、間近で聞くとかなりうるさい。 嫌な表情を浮かべつつ、無意識に耳を塞いでいた。 時計塔の前に辿り着いたのは分かったが、今いる場所は時計塔の正面ではなく見慣れない裏側。 こんな場所に扉がある事なんて、ステラで知ってる人はどれだけいるだろうか。 それ程この地は、誰も足を踏み入れない所だった。 時計塔の裏側には鉄製の扉1つしかなく、他に入り口らしき物は無い。 その扉自体もパネルを操作する機械が取り付けられ、そう簡単に外部の者を中に入れないようになっていた。 だがハイドは、何度も触ってきたような慣れた手付きで扉を開く。 開いた先は長く暗い下りの階段が、地下深くまで伸びている。 普段なら好んで入らないが、無言で促すハイドを見て仕方なく足を踏み入れた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加