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浮遊感を体いっぱいに感じつつ、ボードの操作を確かめる。
一概に空を飛べると言っても、この動力では壁を越える事は出来ないとお互い分かりきっていた。
ふとハイドがもはや口癖になっている言葉が、頭の中に浮かぶ。
『挑戦は限界を超える手段』
機械が壁を超える、そんな光景を少しばかり期待していたのかもしれない。
諦めたと口では言っても、胸の高鳴りは嘘を吐けなかった。
「行ってくる」
「良いデータを期待しているよ」
軽く言葉を交わし、ジキルは右足で大きくボードの後ろ側を踏みつける。
それを合図に勢いよく打ち上がり、あっという間に地面からかなり離れた位置まで辿り着く。
勢いは衰える事なく上昇し続けるが、高くそびえる壁のゴールは一向に見えない。
ガクンと急にスピードが落ちたかと思えば、ボードはそれ以上上昇しなくなってしまった。
まだ壁の向こうは見えない、見えるとすれば小さく見えるハイドとオレンジに輝く街の灯り達。
建物の隙間から日常を送る人々を見て、大きく溜息を吐く。
「俺は一体、何がしたくて生きてるんだ」
無造作に吐き捨てた投げやりな台詞も、一瞬頭から吹き飛ぶ。
さっきまで2人がいた場所から2つ先の路地裏、男が1人誰かと揉めている様だった。
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