表と裏

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人の流れがある方になど目も行かず、視線はその2人しかいない路地に奪われる。 誰もが気にしない、少し外れた光が微かにしか入らない場所。 揉めている様子はわかるのだが、ここからでは何もわからない。 ポケットに常備していた小型の双眼鏡を取り出し、その方角を見る。 「あれは……クツナさんと……」 ハチマキを巻いて髭を蓄えた男は、ご近所で顔馴染みの大工だった。 そのクツナが目の前の男の服を掴み、何か食ってかかってる様子。 だが相手を見て、少し軽く考えてたジキルから思わずうめき声が漏れる。 赤いフルフェイスのヘルメットに似つかわしくない黒いスーツ、男か女かもわからない風貌。 「コハク……!?」 町長直属の特殊部隊、コハク。 普段は街の警備をしているだけの、騒ぎがなければ物静かな集団。 銃などは携帯していないが、独特な威圧感に普通は気圧され住民はあまり近付こうともしない。 クツナはそんな不気味なコハクに怒り心頭なのか、怖気付く事なく言い寄っていたのだ。 悪寒が背筋を走り、ただならぬ不安感が重くのしかかる。 慣れてない感覚に視線を逸らそうとした、そんな気持ちを見透かしたかのように事態は動きだす。 コハクがクツナの手を振り払った勢いのまま、頭を掴み壁に押し付ける。 反撃など許す間もなく、掴んだ手を大きく開いたかと思えばその手の指が大きく伸びた。 ハッと息をのんだ頃には伸びた指はクツナの頭に突き刺さり、暴れていた手がだらりと力なく垂れ下がる。 慣れた手つきで行われた一連の行動は、ほんの一瞬の出来事だった。
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