0人が本棚に入れています
本棚に追加
人の流れがある方になど目も行かず、視線はその2人しかいない路地に奪われる。
誰もが気にしない、少し外れた光が微かにしか入らない場所。
揉めている様子はわかるのだが、ここからでは何もわからない。
ポケットに常備していた小型の双眼鏡を取り出し、その方角を見る。
「あれは……クツナさんと……」
ハチマキを巻いて髭を蓄えた男は、ご近所で顔馴染みの大工だった。
そのクツナが目の前の男の服を掴み、何か食ってかかってる様子。
だが相手を見て、少し軽く考えてたジキルから思わずうめき声が漏れる。
赤いフルフェイスのヘルメットに似つかわしくない黒いスーツ、男か女かもわからない風貌。
「コハク……!?」
町長直属の特殊部隊、コハク。
普段は街の警備をしているだけの、騒ぎがなければ物静かな集団。
銃などは携帯していないが、独特な威圧感に普通は気圧され住民はあまり近付こうともしない。
クツナはそんな不気味なコハクに怒り心頭なのか、怖気付く事なく言い寄っていたのだ。
悪寒が背筋を走り、ただならぬ不安感が重くのしかかる。
慣れてない感覚に視線を逸らそうとした、そんな気持ちを見透かしたかのように事態は動きだす。
コハクがクツナの手を振り払った勢いのまま、頭を掴み壁に押し付ける。
反撃など許す間もなく、掴んだ手を大きく開いたかと思えばその手の指が大きく伸びた。
ハッと息をのんだ頃には伸びた指はクツナの頭に突き刺さり、暴れていた手がだらりと力なく垂れ下がる。
慣れた手つきで行われた一連の行動は、ほんの一瞬の出来事だった。
最初のコメントを投稿しよう!