第1話「リザとリザ」

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第1話「リザとリザ」

転生、そして生まれ変わると異世界だった。 現実世界では夢物語に決まっている。彼女もそう考えていた。 しかし― 「―ッ!!」 目を覚ます。あの世らしからぬ美しい風景に心を奪われる。 小さな川が近くを流れ、空は雲一つない青天だ。日光を浴びて 花々が咲き乱れていた。こんな美しい風景を絶景と言わず 何というのだろうかと、風景に興味を滅多に示さない彼女も 思った。 「おはよう。貴方は何処か別の場所で死んでしまったの?」 彼女とは打って変わって綺麗な容姿をした少女が声を掛けて来た。 美しい故にあまり直視できない。 「そんな風に顔を逸らさないで。私はリザ・フロイトっていうの。 貴方とはまた違う場所で死んだわけでは無いけれど昏睡状態に なってしまった」 大きな戦いでも起こったのか。それすらもリザは話さない。 彼女自身も聞いたりはしない。それは不謹慎に思えたのだ。 それに誰にだって話せない事情は沢山存在する。 「ふふっ、そうね。そうよね、話せないことがあるのは 仕方ない。貴方は優しい人。だから私の我が儘、聞いてくれる?」 彼女が頷くとリザは「ありがとう」と感謝の言葉を述べた。 リザは口を開いた。 「私ね。もう向こうに戻れなくなっちゃったの」 「戻れない?」 「そう。だけどきっとそれは私の家族に迷惑を掛けちゃうから。 それだけは絶対に嫌だ。だから貴方に、第二の人生として私の 体をあげる」 リザはいたずらっぽく笑った。 「便」 リザは彼女の手を引いて大きな木の前に立った。その幹には 扉があった。それがゆっくり開いた。先は見えないが、きっと その異世界に繋がっているだろう。リザが触ろうとすると 見えない壁に阻まれているのが分かった。 彼女が手を伸ばしても何にも阻まれないのに。 「さぁ、行って。きっと皆は信じてくれる。だから何も 心配しないで。新しいリザ・フロイト」 彼女、リザ・フロイトは別の世界へと足を踏み入れた。 窓から見えたのは青い空だった。丁度分厚い雲の隙間から陽光が 射してきていた。 そこに顔をのぞかせて来た二人組がいた。顔はほとんど同じ、 何処が違うのかイマイチ把握しにくい容姿の双子。 それぞれベガとシリウスという名前だ。 「ベガ、シリウス、少し落ち着こう。リザ、立てるかい?」 「はい」 何やら困惑している双子たち。彼らとリザに声を投げかけたのは 長い黒髪の美女。名前をローザという。ローザ・アトフィリア、 有名な魔術師だという。彼女に案内されて広い部屋にやってきた。 一つのテーブルを4人は囲む。 「さて、では改めて君の事を聞かせてもらうよ」 リザは“リザ”と出会い話し、そして貰ったことをしっかりと 説明した。それを聞き、それぞれの反応を見せる。 「まぁ結局今までと変わらないな。どっちにせよリザ様だから」 とカノープス。 「そうですね。貴女がリザだと、言うのであれば従うだけ」 とベガ。そしてローザが頷いた。 「私も深く追求し、君を追い詰めるつもりはない。だからこちらも しっかり事情を話さなければならない。こんなに綺麗だが 君がリザを名乗る今より3年前の話だ―」 そこからはローザが話を進める。3年前、リザは誰かに襲われた。 勿論、ベガやカノープスも彼女を庇うもリザは心優しい主人。 彼らを上手く逃がして自身が囮をしたというのだ。 そうだ、あの時に“リザ”は昏睡状態になったと言っていた。 この戦いが原因だったようだ。 「死は免れたが魂と肉体が完全に分離させられてしまったらしい」 「何かの術?」 ローザが頷いた。彼女も魔術のプロ、その手には詳しい。だからこそ “リザ”に掛けられた魔術が超高等で古代式の魔術であることを 知っている。それ故、彼女でも迂闊に手が出せなかった。 「じゃあその犯人を見つけて、とっ捕まえたいね」 「そうは上手く行きませんよ。相手も力があるのです。向こうから 来るのをゆっくり待ちましょう」 ベガは落ち着いた口調で言った。
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