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「で? 今日はどうしますかぁ?」 「そうね……」  真っ赤なネイルはすでにきれいに落とされている。素爪の具合を確かめながら、彼女は私のオーダーを待つ。 『魔女みたい』  あの日の小さなお客様は、人を笑顔にする魔女だと、私のことを言った。  初心を取り戻した気がする。大学時代に古着屋のバイトをしていたときだって、入社したてのときだって、私はいつでも、ファッションの力を信じていた。  店長になって、シフトを組んだりスタッフの研修をしたり、商品の補充をしたりで、その気持ちを置き去りにしていた。  ありがとう、と言ってもらえること。自分が薦めた物が、みんなの笑顔に繋がること。それこそが、この仕事の喜びだった。  仕事への取組み方が変わると、私生活も変わった。私は浩司のやること全部に苛立っていたけれど、彼に直接伝えたり、改善させようと動かなかった。  あれこれ言うようになると、ストレスも溜まらなくなったし、捨てられると思った浩司の言動も、少しずつ改まってきた。  ……まぁ、別れるのか付き合いを続けるのかは、今後の私の気持ち次第だ。 「そうだなぁ……黒」 「えっ。また単色?」  嫌そうな顔をする彼女に、私は笑った。 「黒の上に、白で描いてほしいな。レースとか、花とか」  私のオーダーに、「珍しい」と目を丸くした彼女だけれど、「了解」と、理由を聞かずに請け負ってくれる。  そう。私は魔女になるんだ。花やレース、夢見るようなパステルカラーの洋服を売って、誰かをきれいにする、魔女。  その意気込みを爪に載せて、私は明日も、店に立つ。
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