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「赤がいいわ。ストーンもラメもいらない。真っ赤なネイル」 「単色ぅ?」  緻密なアートを小さな爪に描く方がよほど難しいと素人目には思われるが、プロに言わせてみれば、単色の方がごまかしがきかない分、難しいと言う。  ぶつぶつ言いながら、彼女は赤いネイルを吟味する。一口に「赤」と言っても、微妙な違いがある。似合う赤と似合わない赤が、人それぞれにある。  往々にして、男はその微妙な差異に気がつかない。それは別に、相手に興味のあるなしではなくて、頭や目の構造がそうなっているだけの話なのは、有名だ。  まあ、浩司は私が当てつけのために爪の色を赤くしたことにすら、気づかないだろう。 「この色は?」  砂糖菓子めいた爪で一本のボトルをつまむ。  オーダーどおりの真っ赤なネイルは、毒りんごの赤だ。  頷けば、彼女は私の手を恭しく取った。身長差があるから、手のサイズも違う。浩司には、こんな風に大切に扱ってもらったことはない。  必ず彼女を指名するのは、束の間のお姫様気分を味わいたいからかもしれない。 「……はい、できあがり」  十数分後、私の指先は赤く染まっていた。
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