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『家にいるときくらい、ちゃんとしたもんが食いたい』
同棲を始めたばかりの頃、店長に昇進して忙しかったこともあって、外食やコンビニ弁当が続いたときに、浩司が言った言葉だ。
以来、私はできる限り、自分で調理をした。揚げるだけのコロッケもおかずの素も使わずに、きちんと一から作った。浩司が飲みに行く日はホッとしたほどだ。
私からのLINEを見てくれれば、返信をしてくれたら、後輩からの誘いに乗って、飲みに行ったのに。
もう、何も作る気にはなれなかった。お腹は空いたけれど、食べる気力もわかない。冷蔵庫に食材をしまって、オレンジジュースのパックを取り出す。残りわずかなので、コップを用意するのも面倒で、そのまま口をつけた。
むせながら飲み干して、そのまま流しに空のパックを放置する。浩司が散らかしたゴミも、明日でいいや。
お風呂に入って寝よう……ああ、お風呂も掃除しないとダメなのか。仕方ない。シャワーで済ませよう。
ぐ、と口元を拭って浴室へ向かおうと振り返って、悲鳴を上げた。
「ちょ、浩司。何よ」
ベッドにいたはずの浩司が、真後ろに立っていた。顔は赤く、目は潤んでいる。
流し台に押し付けられて、退路を塞がれた。顔に酒臭い息がかかる。ああ、キスをされる。
酔った浩司に抱かれるのは、好きじゃない。まして今日は、仕事の疲れもあって、そんな気分じゃないのに。
胸を押して緩く拒絶の意志を示すものの、彼の欲に流されて、私は目を閉じて、全部を諦めた。
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