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【prologo】episodio.1「Incontro con lui(彼との出会い)」
この世界なんてどうでもいい。
こんなオレを産んだ世界、こんなオレを受け入れない世界。
そんなものどうでもいい。
ザ───。
強い雨が体に打ち付ける。冷たい。寒い。……いや、もはや何も感じない。空を見上げる気すら起きない。真っ暗な路地裏で、ただ小さく蹲って時間が過ぎるのを待った。
どうかどうか。こんなオレが早く消えますように。こんな世界が無くなりますように。ぱっと消えてそれで終わればいいのに。全部一瞬で、あっという間に。
ふと、雨の音が変わる。何かが遮る音。体に当たる雨が、何かに遮られている。
つられるように見上げると、そこにはこの場に不釣り合いな上等なスーツをその身にまとった男。その男が、自分に傘を差し出していたのだ。
「……なに」
今さら。虚ろな目が男を捉えて、すぐにまた汚い地面を眺める。すると頭上から明るい声が聞こえた。
「やっと見つけた、私の宝物」
もう一度見上げると、そこにはにっこりと笑う男の顔。
その男との出会いが、オレの短い人生を変えた。
それが幸か不幸かなんて、オレにもわからない。
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