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すっかりお腹も膨れた頃。アェルドがさて、と口を開いた。
「色々気になることもあるだろうから情報交換といこうか。なに、まあ簡単に言えば自己紹介をし合うのさ」
とはいえ昨日名前は言ったけどねと口を拭きながらアェルドが言う。
「改めて、私はアェルド。ヴィヴァルディ家の次男さ」
「ヴィヴァルディ家は公爵家なんだよ」
ブルームが食器を片付けながら教えてくれた。公爵家……よく分からないけど、偉いお金持ちと言うのは分かる。やっぱり凄いやつなんだな……こう見えても。
「お前はどうなんだい?本当に何も覚えていない?」
「覚えてること……」
暗い。冷たい。人の声……。
「……暗くて冷たくて、人の声がした……そんな記憶はあるけど、夢かどうかもわからない」
「……ふむ」
アェルドは少し考えて腕を組んだ。
「よし、ならば私が知ってる情報を教えよう。私も最初は信じ切れなかったが……聞いた話は正しかったようだ」
「聞いた話?」
「実は私の大切な人が君を探して欲しいと頼んできてね」
拾われたのは偶然じゃなかったのか。それに、オレを知ってる人がいる……?
「それ誰……」
「その人が言うには」
「いや聞けよ!その人って……」
アェルドが口に人差し指を当て「Shh...…」と言葉を遮る。その真剣さに思わずこくりと生唾を飲んだ。アェルドは「いい子だ」と言うと再び腕を組んで話を続ける。
「その人が言うには……君たちは作られた存在」
は?と思わず声が漏れる。だってそうだろ、そんなまさか。
「ホムンクルスのダンピール……人と吸血鬼の混血……ダンピールだ」
「……ダンピール……?」
ちょっと待て、と顔を押える。オレが作られた存在で、ただの吸血鬼でなく中途半端なダンピール?人間と、吸血鬼の……。
「頭が痛くなってきた……」
「落ち着いている方だよ。……ショックかい?」
アェルドが眉を顰めて優しく問い掛ける。
「君たちは研究によって作られた存在だ。人間の我儘でね。人間を恨んでも、仕方のないことだ」
「……確かに、恨みたい気持ちはあるけど……」
だが、それよりも。
「……君たち、ってどういう事?」
アェルドが口を噤む。あいつはさっき、「君たち」と言った。考えなくても、それはオレと似た存在が他にも居るということだ。そうなれば気になることがいくつも出てくる。
なぜオレはそれを知らない?なぜ一緒に居ない?今そいつらはどこに?オレたちは何のために作られた?
「……答えろよ」
「……すまない。お前がもう少し落ち着いてからと思っていたんだ」
目を伏せてから少し考えると、アェルドは顔を上げて真っ直ぐ見てきた。やはり信用ならない。コイツはどこまでを知っていて、オレを使って何をしようとしてる?
「……話すよ。君たちが生まれてきた訳を。研究の意味を」
アェルドは眉を顰めて、言葉を紡いだ。
「君たちは、戦争の道具として作られた」
ドクン、と心臓が大きく動いた。
「君はそのホムンクルスたちの十三番目。末っ子だよ」
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