バトルスタート

1/4
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

バトルスタート

 冬の凍てつく風が、堀を泳ぐ鯉をも震わせている。  その堀に四方を囲われた県立高校。その名も。  午後三時四十五分。授業終了を告げるチャイムの音が、校内に響き渡った。  その音を合図として、各クラスの掃除当番は一斉に教室の掃除を始める。掃除の時間は十五分。微妙に持て余す時間だ。 「おい、亜美! 今週はお前が掃除当番だ。しっかりやれよ」  東校舎の三階にある二年四組の教室で、一人の男子が声を張り上げた。  彼の名は藤原(ふじわら)孝宏(たかひろ)。このクラスで学級委員を務める中肉中背の秀才メガネだ。 「ふふ。嫌じゃ!」  江戸時代のお転婆姫様のような口ぶりで、メガネの言葉を完全拒否したのは赤崎(あかさき)亜美(あみ)。このクラスでいきものがかりを務める小柄なおかっぱ女神だ。 「嫌じゃじゃないよ!」 「ん? じゃじゃ? じゃじゃじゃじゃーーん」  亜美はそう言いながら両手を広げて、教室から脱走しようとした。忍者のような走りで廊下へ出ることのできる引き戸へと向かう。 「おいこら待て」  孝宏はすぐさま引き戸の前へと回り込み、亜美の前に立ちはだかった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!