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数分後、また目を開けた。
「……ん?」
周囲を見回し、訝しげに頭をかしげる。
手元のリュックから携帯を取り出して開く。その携帯は今時珍しいガラケー、蓋にイルミ機能がある防犯ブザー付き子供携帯だった。
今ではこの少年の同年代やそれ以下の年代の子供たちであっても、中学へ上がる頃には既にスマホを与えられていたり、高校受験が近くなる時期ともなれば、遠出することも多いからか連絡手段は充実させられる。買うとすればもうスマホの時代でわざわざガラケーを買うことも無いからか、絶賛使用中の子供は極少数となって……数年後には電話としての使用すらできなくなる。
それでも少年が買い替えず使い続けているのは、単にスマホに乗り換えるお金が無いからだろうか。
画面に大きく表示されたアナログ時計から、現在の時刻は9時になろうとしているところだと分かる。
そして少年はようやく、なんとなく抱いていた違和感の正体に気づいた。
「誰もいない……」
この少年の乗っている電車は通常、夜遅くなっても残業帰りの社会人とか塾帰りの学生とかで賑わい、立ち乗りもそれなりにいるはずだった。
ところがその車両にはこの少年一人を除き、人っ子一人いない。
そしてもう一つ、この電車はさっきから暫く止まっていない。体感時間ではあるが10分近く止まる気配がない。
「快速に乗ったはず……」
自分の記憶をたどり、少年はぽつりと呟いた。
この少年が普段乗る電車は、こんなに長くは走らない。2~3分、長くて5分程で次の駅に着く。特別快速とかに乗っていたとしたら、こんなに空いているわけがない。
携帯で今の運行状況を確認しようと思い、操作をしようとしたが……
《カードが認識できません》
「……クソ」
一瞬メッセージを映したと思ったらすぐに電源が切れた携帯を見て、少年は思わず悪態をつく。使い続けて結構経つからか最近になって出てきた不具合、こうなると暫くは電源が点いてもアンテナが立たないので役には立たない。
そのままジッとしているのは流石に不安に思ったのか、少年は立ち上がる。一応最奥の操縦席を覗いてみたが、
「……まあ、そうだよね」
無人だということを確認し、少年は前の車両へと向かった。
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