おまけ:発情と木霊と

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◆◇◆  その夜、俺の状態は徐々に重く辛くなってきた。体は重怠く、体は熱を孕んで逃げてくれず、腹の奥の方がジクジクと疼いているような落ち着かない状態になり、こみ上げる訳も分からない不安に気持ちをかき乱されて誰でもいいから縋り付きたい気分になってくる。  それに、喉も渇いた。はふはふと息をして、側にある水差しから水を注ごうにも手が震える。持ち上げようとしたそれがガタガタ音を立てて震えるのを見て、俺は手を引っ込めた。  その時、環さんが俺の側に来て水差しを手にし、抱き上げるように上半身を上げてコップを唇に当ててくれる。ひやりとした感触が心地よくて、俺はようやく焼けるような喉の熱さを癒やす事が出来た。 「思った以上に辛そうだな」 「環、さん……助けて……」  ポロポロと涙が零れる。こんなに押し潰されそうな不安は感じが事がない。  涙を流す俺の目尻にキスをした環さんがそっと俺の体を横たえて、夜着の前を開けた。  夜のひやりとした空気が肌を撫でる。それともこれは俺の体が熱いから? 気持ちがいいような、焦れったいような気分だ。 「本当に、いいのか? おそらく止まらないぞ」 「いいです。俺、環さんの赤ちゃん欲しいです」 「そう言ってくれるのは有り難いが……お前の体が心配だ。木霊はそれほど強いわけではない。更にお前は元は人間だ。産後の肥立ちが悪くそのままなんて事になれば、我は狂うぞ」  ギュッと抱きしめて切々と伝えられる言葉を俺は少し浮いた意識で聞いている。ちょっとだけ、思考が戻ってくる。多分それは抱きしめられている安心感だ。大切な番が側にいてくれるからだ。  俺も、ギュッと抱きしめ返した。そして、ちょっとだけ笑えた。 「信じてください」 「……分かった」  見つめ合って、どちらともなく近づく距離が触れあう。受け入れた舌は知っているものよりも少しぬるい。俺の体が熱いからなんだけれど。 「あん……ぅ、ふぅ……」  頭の中がぼんやりして、霞がかかったみたい。気持ち良くて癖になりそう。もっともっと味わいたくて沢山舌を絡めた。混ざり合った互いの唾液を飲み下すだけで、俺の体は内側から火が付いたみたいになる。勝手に腰が動いて環さんの体に擦りつけてしまう。はしたないけれど、止まれない。 「ドロドロだな」 「ごめんなさい、気持ち良くて止まらないです」 「良い。愛しいと思う」  低く、機嫌のいい猫のような声で言われると胸の奥がキュンとする。許されるからこそ、俺はこの痴態を恥じなくてすむ。恥ずかしいけれど、見せてもいいんだと自分に言える。  大きくて男らしい環さんの手が、俺の濡れた男茎に触れて上下する。それだけで腹の奥が強烈に締まって疼いて、俺はあられもない声を上げて達した。ほぼ触れられただけなのに。  流石に恥ずかしさに熱くなる。泣きそうになりながら環さんを見上げた俺は、嬉しそうにギラギラとした目で微笑む人を見て……不覚にも、ときめいた。 「可愛いぞ、凉眞」 「ごめ、なさい」 「謝る事はない。我の手は気持ち良いか?」 「あぁ、気持ちいい、ですぅ! んぅぅ!」  じゅぶじゅぶ音をさせながら扱かれて、俺は何度も腰をビクつかせて達した。ここに来て俺の男茎は少し小ぶりになった気がする。おそらく環さんの妻という位置づけが定着したからだろう。子供のようとまでは言わないが、愛らしいくらいなものだ。  それが壊れたように白濁を吐き出しているのはちょっと劣等感もあり、恥ずかしくもある。  そして男としての快楽を得がたくなったのと同時に、俺は腹の中で感じる快楽を強く受け取るようになった。今も腹の奥が疼いてたまらない。早くここに欲しいと本能が訴えてくるかのようだ。  そしてもう一つ、とても弱くなった場所がある。  環さんの唇が俺のツンと立ち上がった乳首を含み舐め転がす。瞬間、俺の頭の中で何かがブツンと切れた気がした。嬌声は辺りに響くようで、弓なりにしなる背が震え、足先にまで力が入ってピクピクと痙攣した。そして、なぜか尻の下がヌルヌルに濡れた。 「達したか」 「あっ、なんで? お尻……」 「発情しているからだろうな。黒乃に聞いたが、ここの奥に小袋が出来ているらしい」 「子、袋?」 「子宮のようなものだ。普段は機能しないようだが、発情の時にはここが濡れるそうだぞ」  それはもはや、男ではないのでは?  思うが、もう今更な気もする。とっくに人間はやめたのだ、今更男という概念から多少はみ出したくらいなんだっていうんだ。  大事なのは、環さんが俺を愛してくれること。俺が、環さんを愛していること。それだけがちゃんとしていれば、後は些細な事だと思える。 「怖いか?」 「驚いた、だけです」 「そうか」 「あの、こんな俺でも環さんは好きですか? 男なのか、女なのかも分からない俺のこと、好きでいてくれますか?」  不安になってしまったら口にしないと止まれない。思わず問いかけた俺に、環さんはとても優しく笑って、汗に濡れた前髪を手で払ってそこにキスをくれた。 「無論、好きだ。お前が何になろうとも、我の番はお前だけだ」 「あ……」 「不安になるな、凉眞。我は移り気な男ではない。ただ一人、愛しい番を抱いていられればそれで幸せだ。お前がこの腕から消えてしまう事だけが恐ろしいと公言できるくらいには、お前に惚れている」  どうしよう、泣きたくなる。実際涙が零れている。幸せでも、人は泣くんだ。  笑った環さんがその涙を拭ってくれる。多分もう、平気だ。この快楽に身を委ねても怖くない。この腹が授かった命で膨らんでも怖くない。 「好きです、環さん。俺、とても幸せです。貴方が側にいて、一緒にいられて」 「あぁ、我もだ」  熱に浮かされ呟く睦言のような甘さで、俺は何度も名前と「好き」という言葉を重ねた  唇が首を撫でる微かな刺激にすら甘い声を上げ、震え、その唇が胸元に到達して痛いほどに硬くなった粒を刺激して。俺は何度も重い快楽に目眩を起こしながらも溺れた。  胸がとても張る。少し痛いくらいで、なのに気持ちがいい。熱を持ったようだ。  環さんがその先端を軽く甘噛みした時、ドクッと心臓が鳴って俺の頭は真っ白になった。 「や、あっ……あぁぁ!」  何かが膨らみきった胸から抜けた気がして、それがどうしようもなく気持ち良くて震える。腹の中がドロドロに溶けてしまいそうなくらい気持ちいい。熱くて、痺れて、訳が分からない。  環さんは何度も俺の胸にむしゃぶりついては吸い付いている。その度に何かが溢れるみたいだ。  でも、吸い出されると胸の痛みは和らぐ。ひとしきり両方の胸が落ち着いた頃、環さんはようやく唇を離してくれた。 「木霊は気が高ぶるとこんな場所から放出するのか?」 「へ……ぇ?」  ヌラヌラと淫靡に濡れた俺の乳首からは、ぷくりと何かが溢れ出している。俺はそれを母乳かと思って焦ったが……どうやら違う。だって、無色透明だ。  溢れ出たそれを指に纏わせた環さんが、その指を俺の口に突っ込む。何をするんだこの人は! と思ったが……これが花の蜜のような爽やかな甘みだった。 「どうやら神気が溢れたもののようだが……これは困る」 「え?」 「美酒か媚薬か」  少し辛そうな眉を寄せる人を見て、俺はその下も見た。そして思わず「ふひっ」と声が漏れた。  環さんの環さんが、普段の1.5倍サイズくらいになっている。しかも既に臨戦態勢整っている。  なにがって、これを見た俺の尻がダダ漏れに漏れて濡れてくるのだ。思わずゴクリと喉が鳴る。これを……俺の中に? この疼いてたまらない腹の中に招き入れて、ぐずぐずに突き上げられて掻き回される? 「んぅ!」  想像だけでキュッとして、余計に濡れた。軽く達してしまった俺は恥ずかしくてたまらない。 「くくっ、欲しくてたまらぬか?」 「……ごめんなさい」 「構わぬ、これは本能だ。自らの子を残そうという本能に我が選ばれたのは、実に光栄だ」  今はまだどうしようもない快楽で頭の中が浮いているが、冷静になったらしばらく顔も見られないくらい恥ずかしいんだろうな……。想像だけでもうだめだな。 「さて、では触れてもよいかな?」 「あ……」  大きな手が尻たぶを撫で、割れ目を指がなぞる。それだけでゾクゾクして震える声を上げた。期待だけで菊座がハクハクと口を開けているのが分かる。ググッと腹の中が動いている。こんなに貪欲に、俺の体は環さんを欲している。  指が軽く振れ、濡れているのを確かめると一気に二本入り込み、俺はのけぞった。物足りないけれど、与えられる快楽は深い。指先が内壁に触れるだけでも俺は飛びそうになっている。 「凄く濡れている。早くよこせと涎を垂らして待ち構えているのか?」 「や、そんな事っ」 「褒めておるのよ、我が番の可愛さを。我が欲しいと泣き濡れておるのがたまらなく愛しい」  濡れた声でそんな事を言われると耳から脳みそ犯されている気分だ。  指が俺の中を慣らしながらぐちゃぐちゃに掻き回していく。俺はもう何度達したか分からない。頭の中はずっとチカチカしていて、心臓は壊れたみたいに早い。そしてずっと頭の中で「孕みたい、孕みたい」という声が響いている。 「やっ、環さんもうっ! もう欲しいです! お願い、俺もう死んじゃうよぉ!」  懇願が聞き入れられ、指が抜ける。そして直ぐに熱い杭のようなそれが俺に与えられ、それだけで俺は一瞬気をやってしまった。 「凉眞」 「あ……ぁ……気持ち、いい……です」 「っ! これ、気をしっかりもて」 「もっ、だめぇ……奥に欲しい……貴方の子種が欲しいですっ」  抱きしめて、キスをして。俺は欲張りに沢山おねだりをした。奥をついて、もっと掻き混ぜて。はしたない言葉を沢山口にした。  俺を強く抱きしめて、混ざり合うようなキスを何度もして、叫ぶような嬌声を上げる俺をその逞しい胸に閉じ込めてくれる。安心すると同時に切ない。それに、変になりそう。  熱い切っ先が俺の最奥をこじ開けるように強く打ち込まれる。そして俺はそこに、何かいつもと違う部分があるのを感じた。当る度に変になる。ここに欲しいんだって全部が訴える。ここに注いで欲しいんだって、分かった。 「あっ、そこ、そこに欲しい……環さんが欲しいです!」 「っ! あぁ、そのようだな」  汗に濡れた環さんの匂いにすら欲情する俺は自ら足を環さんの腰に絡めた。そうすると更に奥に当って気持ちがいい。このまま突かれるから、俺の視界は白黒する。 「いっ、そこイイっ」 「っ! 受け取れっ」 「っ! んっっっ!!」  低く囁かれた言葉は熱に濡れていた。一滴も零さぬようにと奥の奥に押し当られた切っ先から熱いものが流れこんできて俺の腹を満たしていく。俺は一際大きく深い波に飲み込まれながら達した。全身震わせて、それでも離さないと足を巻き付けたまま息も止まりそうなくらいに感じた。  腹の奥で俺と環さんが混ざっていく。それがとても心地よくて、嬉しくて、幸せで。  キスをしながら、環さんがまた中で大きくなっていく。俺もまた軽い疼きを感じる。腹の中は環さんで一杯なのに、まだ欲しいんだ。 「物欲しげだな、凉眞」 「環さん……」 「よい、いくらでもやろう。お前の腹に我の子が宿るまでいくらでも注ごう」 「はい……もっと、ください」  一度腹が満ちたからか、少しだけ俺にも余裕が出来た。その分だけ、今度は優しく穏やかなキスを。そしてもっと深い愛情を。  結局それから三日三晩も抱き合った俺はようやく発情期を脱した。そして案の定、恥ずか死んだのだった。
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