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◆◇◆
「うっす、凉眞! 調子はどうだ?」
「有り難う、黒乃さん。大事ないよ」
俺の発情期から半年後、黒乃さんは頻繁に俺の所にきてくれるようになった。
俺の腹は最近外から見てもふっくらと膨らんでいる。着物の帯を緩め、立ち上がる時も腹を気にしている。
「いやぁ、めでたい! これでこの土地は更に発展するし守られるぞ」
「そうなの?」
「当たり前だろ! 土地神の環が幸せであれば、そこに住む生き物は幸福を得られる。更に子が生まれれば次の土地神になる。長く続いていく土地の守護だ」
「そうなんだ」
俺は愛しく自分の腹を撫でた。そして、思わず笑ってしまった。
そうか、君は俺達に幸せをくれるばかりじゃなく、ここに住む人達も幸せにしてくれるんだね。
「産婆は俺がしてやるから、安心しろよ。とりあえずは無理せず休みながらだ」
「はい」
「栄養とってるか? お前、子供出来ても細いからな」
「これでも以前の倍は食べてるんですよ? 環さんなんて食べ過ぎじゃないかと心配してて」
「あぁ、神気が強いんだろうなその子。食ってもお前の栄養になる前に子供が食っちまってるのかも。食べたい物あるか?」
「果物が食べたいです」
「よし、用意してきてやる!」
張り切って出て行く黒乃さんを笑って見送った俺は、ほんの少し腹の中で動いた気がして思わず撫でる。そして、小さく笑った。
「早く顔を見せてね」
俺の世界はとても幸せで温かい。そしてこれからはもっと沢山の幸せをつれてくる。そんな、うららかな春の日だった。
END
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