夢のかけら

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夢のかけら

 今日も私は、処方箋(しょほうせん)の内容を確認して調剤する。ふと受付に目をやると、小学生が不安そうな顔で待っているところだった。 「かゆい。背中がかゆい」  小学生の私は、夏に汗をかくと背中がかゆくなるようになった。プツプツと発疹ができて、プールの時間に水着になるのが恥ずかしい。  かゆい、かゆい。朝起きると、Tシャツに血がついていた。寝ている間に()きむしってしまったのだろう。 「病院に行こうかな」私は恐る恐る母親に言った。注射が怖いのだ。 「女の先生がいるから、隣の駅の皮膚科に行ってきたら」と母親はあっさりと教えてくれた。  そういう問題じゃなくて、いや、そういう問題でもあるんだけど、と思いながら自転車を走らせる。暑い。太陽が照りつける。15分ほど走ると、皮膚科が見つかった。新しそうだ。 「初めてです」と言って保険証を渡し、問診票をもらう。「けっこう人がいるんだな」と思いながら待合室を見渡す。  包帯を巻いている人、ぽりぽり頭を()いている人。いろんな人がいた。共通しているのは、みんなかゆそうだということ。 「小野さん」  名前が呼ばれた。 「アトピーですね」  診断はあっけなく終わった。アトピーってひじとか膝の内側がかゆくなるんじゃなかったっけ?  「塗り薬を出しておきます」  これを塗ったら治るのかな?  家に帰ってパソコンで薬の名前を調べる。  「ステロイドは、体の中の炎症を抑えたり、体の免疫力を抑制したりする作用がある。 副作用も多いため、注意が必要ーー」  同時に、アトピーには特効薬がないことを知った。 「将来の夢は薬剤師になることです。薬剤師になって、アトピーの薬を開発したいです」  卒業アルバムにそう誓ってから15年が経った。
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