魔女VSスライム(固有スキル:脚フェチ)

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 それはいつもの学校からの帰り道。背の高い草がぼうぼうに生えた河川敷にて。 「昌國」  野良猫を探していたはずの緋色が、腕に何かを抱えて歩いてきた。 「なにかしら、これ」 「ん? ……なんだ、それ」  その腕に抱かれているのは、透き通った水色の、ゼリー状の丸っこい塊だった。  バスケットボールくらいの大きさのそいつは、緋色の腕の中でふるふると震えている。言葉も何も発していないのに、そいつがものすごく幸せそうだということを俺は感じ取った。  ……なんだろう、既視感はバリバリにあるのだが、どう見てもこの世界のモノではない。こう、ゲームとかでよく見る……。  とりあえず咳払いを一つして、こういうシチュエーションで行ってみたかったセリフを言ってみる。 「うちでは飼えません、元の場所に戻してきなさい」 「飼わないわよ。なにかわからないけど、研究材料になりそうな気配なのよねー」  緋色がそう言った瞬間。その生き物(?)はぷるぷると震えたかと思うと、突然粘液を纏ったそいつは緋色の腕から滑り落ち、 「へ」  ぬぷん、といやに生々しい音を立てて緋色の靴の中に潜りこんだ。 「みゃあああああ――!?」  ドガァン! いったいどんな感触だったのか。緋色は半ばパニック状態で靴を脱ぎ捨て、足にくっついたスライム(仮)に向かって魔法を放った。  スライムは哀れ一瞬にして爆発四散した――のだが。 「――え」 「ええ?」  俺と緋色は呆けた声を漏らした。  やつはなんと次の瞬間には元通りの姿に再生し、再び緋色に襲いかかったのだ。何度魔法をぶつけられても、再生してしまう。なんて強靱なスライムだ。高レベル個体なんじゃなかろうか。 「きゃっ! もう、何なのよ!」  スライムは何のこだわりがあるのか、緋色の足を執拗に狙っている。靴下が粘液で溶かされたのか、緋色のちいさな素足があらわになっている。その無防備な足をまるで舐め回そうとでもするように、スライムは緋色の足ににゅるにゅるとまとわりつく。足をヌルヌルの粘液まみれにされながら、緋色が悲鳴を上げる。 「昌國! 見てないで助けなさいよ~!」 「すまん、無理そう」  俺普通の人間だし。そいつどう見ても人間が勝てる相手じゃないって。RPGの世界から出てきちゃったやつだって。なんの力も持たない村人Aの俺にはどうしようもない。 「ひゃ」バランスを崩した緋色が地面に尻餅をつく。 「もう、サイアク……!」  そのほっそりとした白い脚を、スライムが粘液に覆われた全身を使って撫で回す。太ももからつま先までヌルヌルのベトベトだ。  しどけなく座り込んだ緋色のスカートの奥が見えてしまいそうで、俺はあわてて視線を引き剥がした。視線をそらしつつ、 「緋色、大丈夫か」 「う~、痛くはないけど、気持ち悪いし……冷たいし、くすぐった……ひゃんっ」  突然、緋色がかわいらしい悲鳴をあげた。そのまま「ひゃう」だの「やだ」だの「ふにゃぁ」だの、いかがわしい声が聞こえてくる。脚をヌルヌルしているだけですよね?  ……ヌルヌルすること以外に害がないなら放っておこうかなーとか悠長なことを考えていたが、これ以上は看過できない。  俺は拳を握りしめると、緋色に近づき―― 「うちは全年齢向けだっ!」  スライムに向けて正拳突きを放った。  すると、あれほどの再生力を持っていたはずのスライムはバラバラに飛び散ったかと思うと、そのまま溶けるようにして消えてしまった。 「……なんだったのかしら、今の」 「……さあ」  とりあえず、二度とお目にかかりたくない相手だ。 「うう、脚が気持ち悪い……」  緋色の脚はベトベトのままだ。靴も粘液塗れで、履いて歩くのは嫌だろう。俺は緋色の前で身をかがめ、背中を示す。 「仕方ない。おぶってやるよ、ほら」  どうせあとは家に帰るだけだし、ベトベトになっても構うまい。 「し、仕方ないわね……」と渋々と言ったようすで緋色が俺の首に腕を回す。よっこいしょとその脚を持ち上げようとすると、頭をどつかれた。 「ひゃ……ちょっと、ヘンなところ触らないでよっ」 「無茶言うな」  結果、緋色をお姫様抱っこして帰るはめになった。  ……こっちのほうが恥ずかしいと思うんだけどなあ。  粘液がテラリと光る細い脚にちいさな足を見ていると、あのスライムじゃないけれど触り心地が気になって、触れたくなってくる。  そんな衝動をぐっと堪えつつ、俺はため息をつくのだった。
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