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「ここは東京なのだから。こんな大きな装置がなくても、バッチリクリアーに受信できるよ」
「そうでしょうけど。長年愛用してきたヤツなので。離れたくなかったんですよね」
真樹先輩はラジオ局のアナウンサーになることを目指して城南大学に入学した。
ってより、俺達の高校、県立名取橋西高校にある放送研究部の大先輩──
今は東京のFMラジオ局、FMジャンクションで制作の仕事をしている河合素能子さんの引き抜きに遭い、実質上入試免除で入学したのだ。
まぁ、俺もそうなのだけど。
でも俺は、真樹先輩が思っているほどアナウンサーと言う職業に魅力を感じ、そして希望しているのだろうか。
高校時代はDJより、バンドのために費やす時間のほうが多かったような気がする。
まぁ、それを挽回するためにピアノを封印して、大学に通おうとは思っているけど。
よし…… だいたい片付いたかな。開けた段ボールを畳んで玄関の近くに山積みにする。
「じゃ、行きましょうか」
大学が始まるまでは1週間ほど。今は春休み中であるが、真樹先輩がキャンパスを案内してくれるらしい。
そして真樹先輩が現在アルバイトをしている、素能子ちゃんが務めるFMジャンクションも。
なんか、真樹先輩の後を追っているような気もするけど。これも素能子ちゃんが敷いてくれた道。
ラジオ局へ入社するための最短距離だから仕方がないのか。
桜がやっとチラホラと咲き始めたくらいの陽気。俺は上着を羽織り、靴を履いて玄関を出る。
真樹先輩が続くのを見てからドアに施錠をして、駅まで歩き始める。
俺が住むことになった街は渋谷から郊外へ向かう路線の、各駅停車で5つ目の駅。
大学はさらに郊外方面に4つほど進む。大きな川を渡った先だ。
対してFMジャンクションは反対方向── 都心方面に進み、直結している地下鉄の終点の駅に隣接している。
要するに、大学へ行くにもFMジャンクションへ行くにも、電車1本で済ませられるわけだ。
ちなみに真樹先輩はウチと大学のちょうど真ん中。ここから2つ目の駅の近くで一人暮らしをしている。
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