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入試で訪れて以来の城南大学。駅前の門から真っ直ぐに、大きな木の並木道が続く。
生協や学食、主な教室などを案内してもらい、最後にラグビー部が使う芝生のグラウンドの隣に小さく佇むプレハブ小屋を目指す。
建物を目の前にして、真樹先輩がドアを開けようとしたところに、ちょうど軽そうな服装の、長い茶色い髪の男性が中から出て来た。
「お!斎藤ちゃん。珍しいじゃない、休みの日に」
「ええ…… 後輩を連れて来たの。今年入学する富田くん。ユウちゃん、こちらは私と同期でここ、『DJ研究会』所属の小林くん」
俺と、真樹先輩に小林と紹介された、いかにも軽そうな野郎はお互いに軽く会釈をする。
それにしても、真樹先輩の今の喋りかた…… やっぱり以前のままなのかな。
「彼氏?」
「後輩って言ったじゃない」
即答ですか!
「ま、いいや。そのへんにサトルいなかった?もう待ち合わせ時間過ぎてるんだけど」
「…… いいえ」
「そっか。もし見かけたら、先に行ってるって言っといて」
「…… わかった」
「こんにちは」
真樹先輩がドアを開けると、壁に沿うように収納されている夥しい数のLPレコードと向かい合っている男性がいた。
声に振り返り「よう!斎藤ちゃん」と、右手を挙げる。
「ちょうど良かった…… ユウちゃん、こちら、この『DJ研究会』の部長で4年生の石橋さん。部長、今年入学する新入生、富田くんです」
「お!新入生。入学おめでとう。彼氏?」
「いいえ、高校の後輩です」
またもや即答!
「そっか。まぁ、ゆっくりして行って」
「ありがとうございます。お邪魔します」
俺が石橋部長にお辞儀をしていると、真樹先輩はそそくさと建物の奥に進んで行ってしまう。なので、無意識に追いかける。
建物の一番奥は、床が一段高くなっていて畳が敷かれている。8畳くらいのスペースであろうか。
その真ん中に炬燵が置かれてある。お約束のように、テーブルの上には籠に入れた蜜柑まで……
真樹先輩は迷うことなく、靴を脱いでその座敷に上がり、そして炬燵の布団の中に入った。
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