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#05. RADIO WORLD
「へぇ…… なかなかいい部屋じゃない」
都心に近い、駅から徒歩で10分くらい商店街の中を歩いた先に、俺が借りた古びたアパートがある。
「広いし、意外と景色もいいし」
辺りは昔ながらの住宅街のため高い建物もなく、2階に位置する俺の部屋からは、かなり遠くの街並みまで見渡せる。
「でも、私より都心に住むなんて、生意気だなぁ」
俺、富田優司は入学した城南大学へ通うため、大学のある路線の沿線で一人暮らしをすることになった。
こうして段ボールに入れられた引越し荷物も届き、サッサと片付けてしまいたいのだけど……
「マキ先輩、邪魔。手伝う気がないなら帰ってもらえます?」
片付けを手伝ってあげるから新居の住所を教えて。っつーか、最寄駅まで迎えに来て。
と、1学年歳上の斎藤真樹先輩から言われたのは高校の卒業式の後の、OB会で。
高校時代には大変お世話になった真樹先輩と、こうしてまた一緒の大学に通えるのは夢みたいだ。
俺が知ってる真樹先輩は無口で無表情でぶっきら棒で。髪の毛もボサボサだったりしたのだけど……
OB会で会った時は、まぁ…… それなりにセミフォーマルな会合なのでビシッとキメていたからだろうと思っていた。
でも駅まで迎えに行って改札口で会った今日の真樹先輩は、髪はきちんと整えているし、薄っすらお化粧までしているし、何か…… とてもいい匂いがするし。
1年でヒトってここまで変われるのでしょうか。いったい、この1年で真樹先輩に何があったって言うのだ。
先輩…… 少しは人見知りのほうも改善されているのかな……
「すごいステレオ…… これ、実家で使ってたヤツ?」
ローボードにセットしようとしている古びたステレオセットを見て、さすがは同じラジオ人間。真樹先輩もやはり食い付いて来たか。
「ええ…… 実家では独自のアンテナと繋いで。東京のFM局でも、なんとか拾えることができましたよ。
モノラルだしノイズだらけだし、エアチェック(※)はできませんけど」
(※:配信やダウンロードなど、言葉すらもまだ生まれていない時代です。みんなラジオを録音、編集して曲を聴いていたんです。その行為を「エアチェック」と言います)
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