昼、商店街

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 小瓶の上部には細かい穴が空いていて、ひっくり返すとぱらぱらと粉末が零れる。それをスープの上で二、三度振る。  辛いような、酸っぱいような。透明なそれは表面に吸い込まれていって、消えてしまう。  粉末を掛ける前と後で、香りが僅かに変化した。  それは、ミユキにとっての思い出の香り。入学式の桜の香りで、家の中の生活のフローリングの香り、干したての布団の香り、教室の沢山の人の、香り。 「何回嗅いでも、理由がわかんないよね」 「その人の思い出を引き出してくれる効果のあるスパイスなんです」  もちろん、合法ですよ。スーパーに並ばないという意味では非合法ですが。冗談ぽく店員は笑うが、ミユキの頭の中では悪人面した店員がヤクザと取引しているところを思い浮かべてしまう。  ぶんぶんと頭を振って、そのイメージを取り去る。  どんな副作用があっても、あたしは、このスープがすき。それは心の底から湧き上がる、本能的なものだった。
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