1人が本棚に入れています
本棚に追加
「その師匠って、女の人?」
「うぇ、なんでそんなこと聞くんですか」
ミユキは店員の手さばきを眺めながら、くすりと笑う。
「だって、コンロも、包丁も、まな板もメルヘンチック。お兄さんの趣味じゃないでしょ」
「……やっぱり変ですかね」
小さくなったかぼちゃと玉ねぎをミルクパンの中に放り込むと、ゆっくりとかき混ぜ始めた。熱せられた鍋の中で具材がじゅうじゅうと煙を上げた。
「変じゃないよ。可愛いと思うなぁ」
「なら、いいんですけど。買い換える余裕もありませんしね」
「儲かってないの?」
「ミユキちゃんからお代をもらったこと、あった?」
店員の問いかけに鼻歌で返し、ミユキは大きく伸びをした。
「いやぁ、背徳的だよね。お昼から美味しいスープが飲めるなんて」
「褒めたって何も出てきませんよ。スープくらいしか」
「あはは、お兄さん面白い」
コロンとひとかけらのバターを鍋に投げ入れる。芳ばしい香りがミユキの鼻腔をくすぐった。
最初のコメントを投稿しよう!