希望取締官の希望

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数年後──。 (ごめんね。ありがとう) それぞれに宛てた、同じ言葉の手紙。 ベッドに横たわる母親。 あの日頭を撫でた白い腕はさらに細くなり、やがて動きを止めた。 生命の灯りを失った躯と、兄弟。 外の雨音が部屋の中に漏れ出し、すすり泣く声を覆い隠している。 読み終えた手紙をくしゃくしゃと握りつぶし、兄はジャケットのポケットにねじ込んだ。 「……希望なんか、持っちゃいけないんだ」 小さなつぶやきを残し、兄は部屋を出ていく。 ガチャンと扉が閉まった後も、母親の遺体にすがりつき、泣き続ける弟。 「母さん……」 手元の手紙を握りしめ、弟は胸元のポケットにそっと差し入れた。
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