希望取締官の希望

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十数年後──。 ユヅルは、街の大通りに面したカフェで食後のコーヒーを口に含んだところで、目を細めた。 店に置いてあった今日の朝刊に踊る文字。 「希望取締法、改悪へ」 書かれてある記事をざっと数行読んで、やめた。 こいつら、何もわかっちゃいない。 視線を隣に移すと「台風32号の爪痕」の見出しが目に入る。 20XX年の日本。 21世紀初頭のIT革命により、この地球は予測可能な時代に入ったかに見えた。 しかし実際は、数年おきに発生する新型ウイルスの猛威、頻発する巨大台風、相次ぐ大地震。 気まぐれで制御できない地球の活動に直面した人類は、むしろ予測できない時代の到来に不安を募らせた。 予測できない時代に、存在してはいけない言葉。 それは汚い言葉でも、悲観的な言葉でもない。 「希望」という言葉。 12時50分。そろそろ戻らないと。 左腕の腕時計を確認したユヅルは店を出た。 日中にもにもかかわらず街は暗い。 昨日の富士山の噴火で、空中に灰が漂っているからだろう。 先が見通せない時代。 人々は夢、希望、未来といった言葉にすがった。 不安な日々に、明るくて、華やかな未来を夢見ていた。 その欲求に応えるように、街中を希望の言葉が埋め尽くす。 けれど溢れ出した希望の言葉のほとんどは、現実に何度も押しつぶされた。 抑え込んだはずのウイルスが再び猛威を振るう。 復興に歩み始めた街に再び豪雨が襲う。 忘れた頃の余震が再び部屋をぐちゃぐちゃにする。 人々の胸に残るのは、失望だけだった。
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