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窓越しに小雪がちらついている。この時期になると決まって思い出すのが、掠れているけれど、祖母らしいやわらかさを残す歌声だった。祖母が亡くなった四年前には、自分に妻がいる未来なんて想像すらできなかった。
「ねぇ、その歌、なんていうの? 洋楽なんて聞くんだ?」
と、さっきまでパソコンの画面と格闘していた妻がぼくのほうに目を向けていることに驚く。最近は、株だ、ビジネスだ、とぼくにはさっぱり分からない趣味に没頭している。なんか似合わないなぁと妻に対してそんな風に思ったりすることもあるけれど、険悪になっても仕方ないので口には出さない。
無意識に口ずさんでいたことにすこし恥ずかしくなりつつも、
「あ、いやタイトルは知らないんだけど……」と答えたぼくに、
妻は「ふーん」と気のない返事をした。
もともと深い意味があって聞いたのではないのだろう。妻はふたたびパソコンの画面へ、ぼくにはまったく分からないビジネスの世界へと意識を戻していく。
今度は口に出さないようにしながら、運転席で耳をそばだてていたあのすこし掠れた歌声に、ぼくと祖母の秘密の遠出に、想いを馳せる。
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