第一章 始まりの日

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誰も聞いてなどいないわ。 こういうのは相手にしないのが一番なのだけれど。 どうしたものか。 魔法で振り切ろうにも、この男の力量は確かなようで。 付き纏われる可能性の方が高い。 もちろん、あたしが本気を出せば振り切ってやるのだが。 その労力とを考えれば、望み通り名を明かす方が良いのかもしれない。 そう思って、あたしは口を開く。 「ビーシュ。これで満足?」 さて。 どんな反応をする事やら。 かの有名な大魔法使いの名だぞ? その澄ました顔がどう変わるのか折角だから見ていってやろう。 そう思ったけれど、何故かそいつの表情は変わらない。 「ビーシュか。良い名前だね。」 にこりと笑みを浮かべるこの男にあたしは眉を顰めずにはいられない。 正気か? 嘘を言っている様子もないだけに、余計に信じ難い。 そうしていると、この男はあたしに向かって、更なる耳を疑う言葉を口にした。 「これから、よろしくね。」
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