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私は年の瀬のこの時期が嫌いだ。
理由は明確。大掃除だ。
この時期になると皆が皆口を揃えて大掃除をしなければと言い出す。
家でも会社でも行きつけのスーパーやコンビニでもその言葉を耳や目にするのは苦痛である。
なぜなら私は
「掃除……掃除ねぇ」
ごちゃごちゃと足の踏み場もないほどに散らかって積み上げられたモノの真ん中にあるスペースに座りため息を吐く。
お察しの通り私は所謂ゴミ屋敷の人間だ。
実家から出て人に頼れない状況になれば出来るようになると親が言い自分もそうなれるものだと思っていたが現状はこれだ。いつか使うかもだとかいただいたモノだとか思い入れがあるだとかいろいろ考えていると捨てられなくなってしまい、更にはどんどん増えていくモノにどこから手をつけていいか分からなくなってしまった。
それでも何とかしようと片づけようとすればするほど散らかる悪循環。
んー、とか言いながら周りを見回す。
「触りたくない……」
うぇー、と舌を出し吐くようなジェスチャーをするとアルコールで周囲を除菌する。
実は潔癖というか重度の強迫観念で自分の認識したモノ意外には汚物と感じ触れなくなってしまう。
精神的にも不安定で、自分はゴミだからこのような場所にいることがふさわしいと思っているのもある。所謂セルフネグレクトと言う奴だ。
いずれにせよ他人には理解されまい。
こういうモノは他人にバレたら偏見や軽視される切欠になりかねないし、恥を忍んでカウンセラーに相談してもどうにもならなかった。
ただただ私のだらしなく後回しにする性格についてネチネチとお説教されただけだった。
あのカウンセラーは絶対仕事向いてない。
そんな折に職場で大掃除が始まった。
内心面倒くさいと思いつつ、テキパキと片付ける。
(仕事だ仕事)
それだけを考え無心で行う。
ぴかぴかになり周りからは誉められたが防護用具があること・手順が決まっていること・気になると徹底的にやらなければ気が済まないことからやったまで。
それにぴかぴかになっても私には汚いという認識のままなので触りたくない。
それなのに防護用具とか邪魔と言いトイレも素手で掃除していた同僚にやるじゃんとコート越しに背を叩かれた。
愛想笑いを浮かべその場をやり過ごした後、家で即効処分した。
ゴミ袋に包んでたくさん包んで手袋でつかんでゴミに出した。
「ああもう汚いっ!!!」
他人に触れるだけでも嫌なのに、トイレを素手で掃除したその手で触れられた、ということがおぞましい。
掃除した服もいらない。
汚いもの。
そうだこれも捨ててしまおう。あれもそれも捨ててしまおう。
そいうえばこれもポイポイッとゴミ袋に詰めてゆく。
暫くして我に返ると
「床、だと……」
万年床以外の床なんて何時ぶりだ。
何ヶ月いいや何年、下手すれば入居した年以来かもしれない。
変な感動に包まれる。
「片づけ楽しいかもっ」
勢いのまま片づけを続けようとした。その時携帯が鳴った。
親だ。
これから言われることが予想できてため息を一つついてから電話に出た。
「もしも…ー」
やっぱり。こちらの言葉を遮るマシンガントークで言われたのは大掃除のこと。
「今やってる」
「嘘ついてない」
「床だって見えてる」
信じてはくれない。まあ当たり前か。面倒くさい。
「うん。うん。分かってる」
私が一番穢い。ゴミよりも。わかってるさ。
掃除が出来ない私への人格否定の言葉が続いていく。
「分かった。ちゃんと掃除するよ」
それを言えば気が済んだのか電話が切れた。
目の前のゴミを見つめる。
もういいや。面倒くさい。
ゴミはゴミ箱に入れなきゃ行けないし、ゴミより穢い私がいるところはゴミ箱に違いないだろうし。
やる気がそれた私はゴミをそのままに万年床に倒れ込む。
頭が痛い身体がだるい私の全てが悪い。
ああもう
「しにたいな」
ゴミの中からきらりと光る鋭利なモノを取り出すと私は手首にそれを宛がう。
大掃除という言葉とともに自分の至らなさや穢さがループする。
私はゴミだ。
「ゴミは捨ててしまわないと」
そして私は
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