第1小節:はじまりのうた

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夕紀「あっ、タマゴ私のだったんだけど。」 翔「知らねぇよ。」 夕紀「じゃあ、私はこっち貰お。」 翔「おい、それ俺が目をつけてたちくわ!」 夕紀「それこそ知らないよ。翔子どもみたい!」 翔「夕紀だって、子どもだろ。」 くだらないやり取りをしながら、おでんを囲う2人。 夕紀「ねぇ、翔。」 翔「んっ?」 夕紀「……もしプロデューサーとの不倫やめたら、本当にやり直してくれる?」 夕紀は真剣な目をして、翔に問う。 翔は数秒、夕紀を見つめていたが 目をまたおでんに向けて答えた。 翔「やめねぇだろ。」 夕紀「やめるよ。」 翔「やめらんねぇだろ。」 夕紀「やめるってば!」 翔「仕事なくなるぞ?」 翔は少し低い声で言う。 夕紀は宗介の事務所の一員。 万が一、夕紀が宗介との縁を切ると 夕紀への楽曲提供が完全に絶たれる。 宗介はそれを利用して夕紀に近付き 夕紀もそれが分かっているから、宗介と離れられないのだ。 そして、それはもちろん、翔も知っている。 夕紀「……じゃあ、翔にしている仕打ち全部訴える。」 翔「は?」 夕紀「翔のお金、ほとんど持っていってるのマスコミにバラしてやる。」 夕紀は強い口調で言うが、翔は冷静に夕紀を諭す。 翔「そんなことしても、意味ねぇから。」 夕紀「そんなことやってみないと分からないよ!」 翔「分かるよ… この3年間、何か変わったのかよ。」 翔は箸を置き、お茶を飲みながら答えた。 夕紀「でも…私はずっと……」 翔「それに、今耳がイカレちまってな。 同じ曲、2回聴こうとすると すっげぇ頭痛くなんだ。 夕紀…お前の曲でもな。」 夕紀「………」 翔「俺はお頭がいるから 完成した曲を1回聞くだけで、後は関与しないで済んでるんだよ。 俺もここでしか、飯食えない生活になっちゃってんだよ。」
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