癒しにスパイス

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実千果は自分が望まれているさっぱりした性格を演じてしまうところがあった。相手の期待に答えようとしてしまうのである。 実際の実千果は、可愛いものが好きで、ショートボブの髪も本当は伸ばしてみたい。男の腕の中で猫のように甘えてみたい。 しかし175センチある身長はどうにもごまかせず、自分の理想の可愛さに程遠いと考えてしまうのだ。 『珈琲楼』の制服は、可愛いゴシックなメイド風のと、三つ釦ベストとサロンを巻いた執事風のと二種類用意してある。 完全に実千果の趣味だ。実千果はメイド風を着たい気持ちはあるが、パンツスタイルにサロンを巻いて男装の麗人の期待に応えている。 自分はこんなにも不自由だ……。最近は悩む余裕が出てきた。 そして、自分は留まる人間なのかもしれない……そんなことも考えるようになった。 アルバイトの大学生達が入れ替わり立ち代り巣立っていく。みんな平均して二年は勤めてくれる。 就職で、巣立ってからもコーヒーを飲みに来てくれる。ここが癒しの場として感じてくれていることに嬉しく思う。 常連客たちはここで暫しくつろいで、家に帰っていく。 実千果は、刺激を求めているわけではないが、自分も少し変化がほしいと思い始めていた。 もうすぐ三十歳の誕生日がくるのも関係していた。
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