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「初めての卒業生に、最後の送る言葉、言わせてくれ。………夢を諦めるな。追い続けろ。これから先、思いがけない事に遭遇するかもしれないけど、笑って過ごして欲しい。姫野の笑顔はクラスいち、良かった。花の様で好きだった。……社会人歴浅い俺に言われても、説得力無いかもしれないけどな。花が笑うと書いて花笑、良い名前だよな。卒業、おめでとう」
下に見える床に、ポタポタと雫が落ちてシミを作っている。私……泣いている……
大きな体をかがませて、私の視野に入り、私の顔が見える様に話して、目の前で温かい笑みを浮かべている、大好きな先生。
私の初恋の人。歳上の、大人の人。
優しい、優しい、大好きな先生。
最後の日なのに、泣いて、こんなに不細工になっている顔なんて、見られたくないのに………
頭に乗せられた手が、跳び上がる程に嬉しいはずなのに、恥ずかしくて、でも、嬉しくて。こんなに近くで顔見れて、うれしいはずなのに、でも、恥ずかしくて。空大を一人じめにしているのに、喜べない。辛いよ……悲しいよ……先生……
涙と共にぐじゅぐじゅする鼻を、思いっきりすすって、顔を上げた。
「先生。ありがとうございました」
目の前に立つ、大好きな先生。空大に、私の中で、出来る限りの、最高の笑顔で言った。これが精一杯。
可愛い生徒の一人として、覚えていて欲しい……
いつもと違うスーツ姿が、カッコ良いです。初めて教卓の前に立った、空大の姿を思い出す。噂のイケメン新人先生が、私の担任だと知った日の事。
机に行き、鞄を抱えて、もう一度、「ありがとうございました」と、めいいっぱい、勢い良く頭を下げて、逃げるかの様に走って出て行った。
これが私の高校の卒業式。
あの時の空大、先生に言われた言葉『思いがけない事に遭遇するかもしれない……』まさにその通りの事が起きて、今、私は………笑っている。
あの時、先生に私の気持ちを知って欲しくて、メモを書いていた。誰が書いたのか分からない様に、名前を書かずに。
高校生活の思い出に、さよならする為に。
急いで教室を出て行ったから、メモがどこに行ったのか、分からないまま。
家に帰って、鞄の中を見ても、制服のポケットの中を探しても、無かったから、どこかに落としてきたのかもしれない。
花笑が去った教室には、半分に折られたメモ用紙が落ちていた。
そこには『先生、大好きです。ありがとうございました』と、書かれてあった。
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