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鉄兜って何でしょう?
先輩の唇はかさついていて、凹凸の感触がくすぐったかった。
まさか、先輩を抱きしめながら深いキスをするとは思わなかった。
先輩の顔を両手で包み、その乾きを満たすように、唇を重ねる。先輩の冷たい温度に俺の熱が溶かされ、二人で重なっていると、人肌の心地いい熱さに頬がとろけそうになる。
目覚めて欲しい想いで、先輩の上唇を挟み込んでみたり、それを繰り返してみたりと、色々工夫をしているうちに、弱弱しい声が漏れた。
「あっ、先輩……!?」
「ん……あ。ん?ええ!?」
微睡みから醒めた先輩の第一声は、気持ちよさを惜しむような声だった。それから、血まみれの俺と、海に埋まった街と、自分の周りを舞うテトラポットと、目まぐるしい異変に混乱の声を上げた。
先輩の顔から手を離すと、俺の手の形に血の跡がついてしまっていた。
「先輩――」
そこで俺は、事の顛末を先輩に告げた。
俺もよく分かっていない事を、俺よりも分かっていない先輩に伝えるのは難しく、まだ混乱が残っているようだった。
「ごめんな、俺のために……こんなになって」
「そんな!俺はただ、先輩に会いたくて、助けたくて……!」
あ、と二人の声が重なる。
しまった、と思った。
先輩の前で使った事がなかった俺を、使ってしまった。
「俺?」
怪訝そうな顔になった先輩に、俺はなんと言い訳しようか迷った。今までそうしてきたみたいに、うまい事言えやしないかと。
でも、やめた。
先輩の元へ来るまでに、俺は言おうと決めたのだから。
「先輩。前に言ってたじゃないですか。俺が女だったら、って」
「――ああ」
「それを聞いて、お……わた、しは思ったんです。女とか男とかってなんだろうって。そんな疑問というか、違和感みたいなものを持ったまま、半年くらい過ごしていたら、気づいたんです。私、私――」
「……ああ」
身体を抱く俺から昇る血が、赤い彗星みたいだった。
その彗星が近づいて、赤く染まってしまった、先輩の顔。
その顔が、何かを予感して強張っている。
俺の顔は、もっと強張っているだろう。声も震えているかもしれない。
今まで言えなかった事を言うというのは、こういう事なんだと、思った。
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