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大学生、ニ十歳、そこそこの有名校。都内だし。
だからきっと、直ぐに恋人の一人や二人作るもんだと、思っていた。
「国際社会論」のつまらない授業を聞きながら、私はあくびを噛み殺す。
そんな風にして、二年前の憧れと、固定観念と、それから周りからの視線をすり潰した。
「……せ、ん、ぱ、い」
国際社会論のレジュメの余白に、先輩の名前を書いた。漢字の、最後の伸ばしにハートマークを遊ばせたら、なんだか可愛らしくって小さく笑う。
少しためらって、今度は私の名前を先輩の下に書く。漢字の尻尾のお道化たハートマークを、先輩と絡ませた。
「今日も、あの人は元気かな」
サイズの大きい黒のパーカーをワンピースのように着て、足の面積を広くしているから葉の色が夕焼けに染まるこの時期はちょっと寒い。ブーツにハイソックスは、ゆったりしたシルエットのパンツに変えてきてもよかったかもしれない。
講義堂を出た私は、跳ねるように歩きながら、先輩のいるいつものカフェへ足を急いだ。
この恰好が、当たり前だった。
ミニスカートが翻る、降る雪のようにひらひらとステップを踏む自分が、当たり前だった。それしかいないと思っていた。
先輩と初めて出会ったのは、サークルの新入生歓迎会。
『あー、俺、女だったらもっと仲良くなれたのかなぁ』
酔った勢いで交友関係の悩みを打ち明けた先輩を、他の先輩が慰めて、新入生には、コイツみたいになるなよと冗談を飛ばして雰囲気を和ませていた。
その、先輩の顔が、頭から離れない。
ジョッキを片手に机に突っ伏した彼の言葉が、私の心の水面に、突き刺さる。
その言葉の重みは、突き刺さる鋭さは、テトラポットみたいだと思った。
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