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新入生歓迎会以来、俺は先輩と毎日カフェで昼食を共にしている。
こんな、落ち着かない俺と一緒に一年以上お昼ご飯を食べてくれる先輩は、きっと聖人か何かに違いない。
胸が詰まる、喜びは、同時に深いところを抉る四つの刃になった。
先輩の前で、「俺」と言った事がなく、ジーンズにワイシャツの格好を「時間が無かった」で済ませる事への、それは罪悪感のテトラポットだった。
先輩の言葉――『あー、俺、女だったらもっと仲良くなれたのかなぁ』ーーが違和感のテトラポットなら、俺の中の海に転がる言葉の氷柱はもっと多いのだろう。
はじめは、そんな風に落ち込む先輩の近くにいたかっただけかもしれない。
けれど、俺の心に刺さったあの言葉は、いつしか俺自身の在り方を変えてしまった。
それまで嫌いだったカレーライスが、ある時から急に美味しく思えた。
そんなくらいの変化が、俺に起きたのは、去年のクリスマスに街を一人で歩いていた時の事だ。
カップルだらけ、どこを見ても男女二人の組み合わせ。
恋人のいない俺はそわそわして、早く家に帰りたかった。
ぐるぐると、一人頭の中で考えていた。恋人、男女、先輩、言葉、自分。
そんな時、ふと、思ったのだ。
性別なんて、ファッションのようなものかもしれない、と。
そう思った時から、「女」だけの自分の中に「男」が芽生え、日によってころころと状態が変わるようになった。
だから昨日は私の日、今日は俺の日。
この変化に、自信を持てない。だからまだ先輩にも、他の人にも、言えない、誰にもいえないや、と苦笑する。
別に言わなくたっていいかな。
でも、先輩に言えたらきっと、楽なんだろうな、と思いながら――。
胸を刺す言葉の痛みを抑え、今日も先輩の元へ行くのだ。
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